人工知能で技術的失業をした人びとの第二の人生は? 経済学者からのヒント

2017.2.13

駒澤大学の経済学者である井上智洋氏は、「今後人工知能の発達によって失業者が一定数出てきてしまうのは避けられない」と語る。
そして、人工知能によって失業者が生まれることを「技術的失業」という言葉で定義している。
事実、アメリカでは文書作成の仕事をはじめ職種そのものがなくなり、再就職できずにいるひとたちが多くいる。これから世界でこのような状況は加速してしまうのだろうかーー。

「技術的失業」とは一体なにか?

ー人工知能が人間の仕事を代替するようになると失業者が増えることが懸念されます。これから起こる「技術的失業」とは、一体どのようなものを指すのでしょうか?

技術的失業とは、人間が創出する技術的なイノベーションによってもたらされる失業を意味します。実はこの技術的失業という言葉は昔からある言葉です。

最初に技術的失業が起きたのは産業革命期(1770~1830年)のイギリス。
それまで人びとの手作業で営まれていた織物業に紡績機や紡織機が導入され、オートメーションの流れが加速しました。
しかし、当時は失業者は増えたものの、あくまでも一時的で局所的な問題に留まりました。

背景には、機械の導入により必要な労働力が節約されたことで、綿布が低コストで供給されるようになり、一般消費者に下着を身につける習慣が広まったこと。

その消費需要に応えるべく新たに工場労働者の需要が増大したのです。

同じようなことは、重化学工業において技術的イノベーションが起こった第二次産業革命期(1865~1900年)にも起こりました。
つまり、これまではイノベーションが起こることで既存産業が効率化し、消費需要が増大した。
そして、新しい産業が生まれ、労働者の技術的失業は労働移動によって解消されてきた。だから、技術的失業がさほど大きな問題にはならなかったのです。

ー「ならなかった」ということは、今後は「大きな問題になる」ということでしょうか?

1990年代から今日まで続いている、情報通信産業で技術的イノベーションが起きている第三次産業革命期においては、これまでの歴史的教訓に当てはまらない可能性が高いでしょう。

先進国において、需要がそれほど増大しない一方で、技術の発達とともに労働が節約されているため、労働需要が減少しているからです。

人工知能で技術的失業をした人びとの第二の人生は? 経済学者からのヒント

事実、アメリカでは技術的失業が顕著に見られており、また、中間的な所得の事務的な労働が情報技術にとって代わられ、低賃金の肉体労働と高賃金の頭脳労働の「二極化」が起こっています。ただし、頭脳労働もまた、会計士や弁護士助手といった主に数値や文書を取り扱う仕事は情報技術によって代替されています。

この技術的失業の問題は、アメリカの失業率の推移からも観測することができます。
これまでは、好況と不況に伴って変動し、好況の際は低下していました。
しかし、近年では失業率が低下しにくくなっている。

景気が悪いときには企業は労働者を解雇をするけれども、回復期に差し掛かったとしてもかならずしもひとを雇うのではなく、情報技術を取り入れるようになってきているからです。

代替か補完か? 技術的失業の発生を左右するもの

ー翻って、日本の技術的失業の現状はどうなっているのでしょうか?

日本ではアメリカほど技術的失業が顕著であると感じません。
理由は3つ。

1つめに、情報通信のテクノロジーの導入が遅いこと。
2つめに、技術的失業よりもデフレ不況による失業率の増加のほうが注目されていたこと。
3つめに、技術的失業よりも少子高齢化の問題が経済成長率を低下させているという問題です。

3つめの少子高齢化は今後特に失業に関わっていく要素です。
日本ははたらき世代が年々減少していますが、企業はその人手不足を補うために人工知能などのテクノロジーを積極的に導入しようとするかもしれないからです。

それに備え考えなければならないのは、それらの技術が人間と同じか、もしくはそれ以上の質のアウトプットを出せるようになったときに、労働力としての人間が要らなくなる可能性があるということです。

ー人間の仕事が人工知能に完全には代替されず失業者は減るという道筋はあり得ないのでしょうか?

経済学的に言うと、これは「代替か補完か」という問題です。代替とは仕事が置き換えられること、補完とは人工知能などの機械と人間が互いに補い合う関係のことです。

この問題について考える際に気をつけなければならないのが、「代替は不幸、補完は幸せ」であるとはかぎらないということです。

なぜなら、人工知能など先端技術を使いこなせない人びとはいつの時代にも一定数かならずおり、彼らはどうしても間違いなく失業してしまうからです。

オンライン通販の「Amazon」を支えるインフラと同社の社員の関係は、「補完」の良い例でしょう。
技術に長けた少数の社員によって、Amazonを支えるインフラが構築、運用され、サービスは世界中の消費者に利用されています。

しかし、その一方で、多くの書店が閉店に追い込まれていきました。結果的に技術的失業を生み出しているのです。

つまり、現代の高度なテクノロジーと人間という新たなコラボレーションは、過去の産業革命でもたらされたものとは異なり、それほど雇用の創出を生んでいません。

その理由は、特にデジタル空間で完結するテクノロジーは、制約はあるもののあまり費用をかけず「コピー」できてしまうからです。

代替か補完か。いずれの道を辿ったとしても、経済自体は成長していくでしょう。しかし、その副作用として技術的失業が起こるのは避けられないのです。

井上氏の解説によれば、今後経済構造は、生産要素として労働が必要なくなり、資本と技術水準のみで産出量が決定される「AK型生産経済」へと変化していくという井上氏の解説によれば、今後経済構造は、生産要素として労働が必要なくなり、資本と技術水準のみで産出量が決定される「AK型生産経済」へと変化していくという

失業をカバーするベーシックインカムではたらく意味も変化する

ー失業者がうまれるのは避けられない。では、失業者をカバーするための対策は何が考えられますか?

「ベーシックインカム」(以下、BI)が有効ではないかと考えています。BIとは、人びとのはたらくことに対する意思やパフォーマンスに関係なく国民全員に一定の所得を支給し、最低限の生活を保障する制度です。

さらに、「2つのBI」を使い分けていく必要があるでしょう。
それが、「変動BI」と「固定BI」です。

変動BIとは、人びとの消費需要を高めることで、人工知能によって徐々に起こっていく失業を減らすための金融政策。
固定BIとは、完全に仕事が代替されてしまい、溢れてしまった人びとの生活を保障するための給付金。

私は、人工知能が雇用を破壊するか否かは政策次第だと考えています。変動BIと固定BIからなる「二階建てBI」を実施することで、技術的失業の問題を和らげることができるのではないでしょうか。

ー仮にBIが導入されたら、人びとの「はたらく」ことへの考え方、はたらき方が変わるでしょう。

そうですね。
「はたらかなくていいや」という価値観は広まっていかざるを得ないと思います。
ただ、その延長上で「脱成長」を唱える人もたくさん出てくると思いますが、その二つを繋げて考えるべきではないでしょう。

それはこれまでの経済成長率の伸びを見れば明らか。

経済成長というものは、意図的に伸びていくのではなく、人びとが生産活動のなかで自然と創意工夫するうちに引き上げられていくものだからです。
それが、今後は人工知能によってより急速になっていくでしょう。

しかし、個人単位でみたときにこれまでのように躍起になって何かを成し遂げようとする、いわゆるがむしゃらなはたらき方をするひとは少なくなっていくのかもしれません。

また、そうして「お金を稼ぐこと」がいまほど重要でなくなったときに、人間は自分のアイデンティティをどこにもとめるようになるのか。私は、「二極化」していくのではないかと思います。

ーどのような二極化でしょうか?

あるひとは、自分の承認欲求を満たすために富を求めることを考える。
またあるひとは、生活するための最低限のお金があればよいと考え、自分の好きなことにより時間を使うようになるでしょう。

仮に、人びとが承認欲求をそこまで重視しない世界になれば、過去の暮らしに回帰していくのかもしれませんね。
できた余暇にスポーツに興ずるようになるなど。
ちなみに、江戸時代は経済発展や領土拡大といった面で特筆した動きは見られませんでしたが、例えば、和算家の関孝和が線形代数の分野で世界的な発見をしていたり、井原西鶴が等身大の人間を主人公にした近代的とも言える小説を書いていたりして、文化の面では決して停滞していたわけではりません。

現代の人びとは自分の一生の時間の多くを「はたらく」ことに費やしていますが、この時間が大幅に削減されたときには、はたらくことの意味も変わっていくのでしょうね。きっとそのときに大事になっていくのは、やはり、「自分は何をやりたいか」になっていくのでしょう。

井上先生の愛読書の一つは『10万年の世界経済史』。そこに掲載されている「大いなる分岐」を見ながら、「もし人工知能が高度に発達し、労働が必要なくなっても、僕は”研究”を続けていると思います」と語った

取材・執筆 :

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