農業はエンジニアリングー従来の農業のあり方が変わる#01

2017.1.19

野菜は作り手によって味が変わる。そう思っている人は多いだろう。筆者も作り手や地域によって変化するものだと思っていた。しかしその概念が大きく変わる可能性が出てきた。
農業も工場で生産する加工品のように、再現性があるとしたら、安全、かつ美味しい野菜が安定して手に入る未来が待っているかもしれない。そんな希望を持たせてくれる、非常に困難とされている無農薬での野菜の安定生産に取り組む株式会社日本情報化農業研究所の代表を務める古荘貴司氏。彼は、農薬・無化学肥料栽培による栽培方法について研究と実証実験を行い、再現性のある農業を実現するため日々活動している。

農業はエンジニアリング

渡辺 健太郎(以下渡辺):TEDのプレゼンを拝見し、「農業者」=「エンジニア」という発言に興味を持ちました。ちょうど同じタイミングで、もともとIT畑の人が農業ビジネスを準備していて、その人も農業はエンジニアリングだと、つまり再現性があるんだといっていて。

古荘 貴司(以下古荘):そうですね。当たり前のことですけれど、畑という生産設備を使って肥料と種という材料からモノをつくるという意味では製造業の一種じゃないですか。それに関しては新しいアイデアでも何でもなく、普通のこと。それなのに、新しいと言われるのが僕としては不思議なんです。

Image title左:古荘 貴司氏 右:渡辺
渡辺:確かに言われてみればそうですね。農業は一次産業のカテゴリで教育されているから、工場で何かつくるのとは違うという刷り込みがあるのかもしれませんね。

古荘:そう考えていくとむしろ農業は難しすぎるんですね。何か一つ問題があるとしたら、工場だと温度を何度にするとかで制御できるけれど、農業だと調整できない変数が多く、そうはいかない。
たとえば、教科書に畑に何を何キロ入れるとか書いてあったとしても実際入れたうちの何キロが吸収されるのかをちゃんと管理することは無理なわけじゃないですか。

渡辺:たしかに、環境が違う。

古荘:逆に適当にやってもどうにかなるというのがあって。

渡辺:(笑)曖昧なゾーンがあるということですね。

古荘:人間でも、子供を育てるのにタンパク質を何グラムとか計って育てませんよね。普通にしていたら誰でもそれなりに健康でいられる。野菜不足と言われたら野菜をちょっと食べることで普通の健康レベルは守れますよね。むしろそれ以上になったらそれ自体をいかに楽しむかという世界になってきます。

渡辺:そうですね。僕自身も割と健康ヲタクの方なんですけど、他の人が同じようにやるかというと、まあやらないだろうなとは思うんですね。それは多分僕がヲタクだからで。(笑)
それと一緒ということですかね。

ベストな品質のものを作り歩留まりを上げれば農薬はいらない

渡辺:より正確にやればやるほどいいものはできるのでしょうか。

古荘:そういう意味では、やはり人間でも、普通に健康でいることを目標にして生活スタイルを考えるのと、トップアスリートに育てるための生活スタイルを考えるのとでは全く別物になりますので違いはあるのかなと思います。

渡辺:そうなると無農薬野菜は生産するにはレベルが高いものになるんですかね。

古荘:そこはわりとセンシティブな部分であって、農薬を使わない理由は、人それぞれなので。僕自身は農薬が悪いものだとまったく思っていなくて。
実際、うちでできているかどうかは別として、今まで見てきたものからお話しすると、人だって体調の良いときには風邪をひきにくいのと同様、野菜にしても全滅することはまれなんです。弱ったものから傷んでいって、一部がやられて終わりなんですよ。結局病気や虫にやられるというのは歩留まりの問題、歩留まりが一割、二割下がるっていう問題なんですよ。
逆にいうと本当にいいもの作っていると歩留まりが充分な出荷量を確保できるレベルになる。そうなるとわずかな歩留まり悪化を防ぐための農薬散布をするコストの方が高くなってしまうんです。

渡辺:単純に合理的な話ですね。

古荘:だからベストな品質を出している限りは、農薬を使う必要は本来ないはずなんですよ。

渡辺:そのベストな品質を出すために必要な要素というのは、いろいろあるとは思うんですけれど、簡単にいうとどういったものですか。

古荘:土壌改良と施肥管理ですね。

渡辺:2年間くらい研究されていたんですよね。

古荘:そうですね。実際にうまくいっている人の畑を観察して記録をとらせてもらってました。その記録から、仮説を立てて検証を繰り返し行なってました。

渡辺:ある種のノウハウというかレシピみたいなものが価値になるということですよね。

古荘:実際、農業をやられている人なら成功体験をお持ちだと思うんです。ベテランの方だったら、一箇所でずっとされているので、他の地域に関しての情報はそんなにお持ちでないケースが多くて。だから色々な地域や時期、時間、場所をまたいで成功事例を収集している人が多いかというと、そういうことではないんです。

渡辺:なるほど。土地に根付く仕事なので、どうしてもノウハウが広がりにくいんですね。

古荘:はい。広がりにくいですし、比較して検討するという習慣自体が一般的なものじゃないですね。

日本の農業をすべて無農薬野菜にすることは実現可能か?

渡辺:無農薬は特別なことではなく、ちゃんとやれば歩留まりが上がる。そうすると農薬を使わない方がコストが下がるという話ですが、理論的にいうとちゃんとやれば全部無農薬になるということなんですか。

古荘:これは色々な答え方ができるんです。たとえば日本の農業をすべて無農薬にできるかというと無理なんです。
なぜかというと、化学肥料を中心に使って無農薬で栽培をするのは困難だと考えているのですが、化学肥料なしに日本の今の消費量を支える生産は不可能だからです。地球の人口自体は化学肥料の発明によって爆発的に増えているので、化学肥料を使わないという決断をした瞬間に、地球の人口を化学肥料のなかった時代のレベルまで減らさないと食べるものがなくなるというのが現状です。

渡辺:無農薬と化学肥料というのは、裏表のような関係ですかね。

古荘:そうですね。相性は悪いですね。なんとかうまいことコントロールをすれば、化学肥料でも歩留まりを上げていくことは技術的に不可能ではないと思うのですけれど…現状かなり難しそうです。

渡辺:構造でいうと化学肥料(栄養剤)を使用すると免疫力が弱いものができてしまう、だから農薬で守らないと歩留まりが悪化するということですよね。つまり、化学肥料と農薬は完全にセット。

古荘:完全ということではないですけれど、対応関係はありますね。

Image title

渡辺:なるほど。となると無農薬でやる場合は、化学肥料を使わない土壌作りをする必要があるということですか。

古荘:今の技術水準ですとそうなります。うまくやる方法はあるとは思うんですけれど、なかなかそこを研究する人はいなさそうですね。

渡辺:そうすると無農薬というマーケットに対して供給できる無農薬野菜を増やしていくようなイメージ?

古荘:僕らのやりたいこととしては、無農薬野菜を増やすというより美味しいものを欲しい方にお届けしたいので、無農薬に必ずしもこだわりはないんです。

次回は、「有機野菜」=「美味しい」の嘘、再現性のある農業を展開するために日本の農業が解決すべき課題について語る。

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