メキシコのスーパーフード~豊穣の女神の化身「アガベ」~#04

2017.1.19

メキシコのスーパーフードを紹介するシリーズ第4回はカルロス・アルマーダ駐日メキシコ大使とマーラ・マデーロ大使夫人のインタビューと共に、テキーラやアガベシロップの原料であり、古来より薬用植物として用いられている「アガベ」について紹介する。

メキシコのスーパーフードを紹介するシリーズ第2回第3回では、メキシコの伝統料理とノパール(ウチワサボテン)のスーパーフードについて掘り下げてきた。第4回はカルロス・アルマーダ駐日メキシコ大使とマーラ・マデーロ大使夫人のインタビューと共に、テキーラやアガベシロップの原料であり、古来より薬用植物として用いられている「アガベ」について紹介する。
アガベ(Agave)はスペイン語で「マゲイ(Maguey)」、日本語で「竜舌蘭(リュウゼツラン)」といい、乾燥した地域に生息するメキシコ原産のリュウゼツラン科の多肉植物である。厚い多肉質の細長い葉が中心から放射状に広がったロゼット形で葉の先は鋭く尖っており、縁にはトゲが多数ある。成長するのが極めてゆっくりで数十年~百年に一度しか開花しないため、センチュリー・プラント(Century Plant)と呼ばれることもある。
アガベとサボテンは多肉植物でトゲがあるため混同されることがあるが、両者は異なる植物である。

Image title大使館に植えられている各種サボテンやアガベ(右端)

Image titleアガベ

豊穣の女神「マヤウェル」とアガベ

Image titleThe Codex Telleriano-Remensisに描かれたマヤウェル

山本(荒川)真希、(以下 山本):アステカ文明の神話で、アガベは豊穣の女神マヤウェル(Mayahuel)の化身であるとお聞きしました。

カルロス・アルマーダ駐日メキシコ大使、(以下 大使):アガベはメキシコ人にとって、豊かさをもたらしてくれる非常に有益な植物です。かつては儀式や行事にも欠かせないものでした。我々はアガベをそのまま食べませんが、加工してシロップやテキーラ・メスカルといった蒸留酒のほか、葉の繊維から紐や布をつくります。固く鋭いトゲは針として使用していました。また、葉の抽出物は古くから傷の治療に用いられていました。アガベの絞り汁を発酵させた白い酒は「プルケ」といいます。現在はお酒として飲まれていますが、その昔は宗教儀式で用いられる特別な飲み物でした。

Image titleカルロス・アルマーダ駐日メキシコ大使
山本:アガベはいくつか種類があるのですよね。

大使:アガベはたくさんの種類があり、その多くがメキシコに自生しています。テキーラの主原料となるのは「Agave Tequilana Weber Blue(アガベ・テキラーナ・ウェーバー・ブルー、アオノリュウゼツラン、ブルーアガベ)」といい、青みがかった緑色をしています。テキーラの産地であるハリスコ州のブルーアガベの畑は、ユネスコの世界遺産として登録されています。

テキーラとユネスコ世界遺産~リュウゼツラン景観と古代テキーラ産業施設群(登録2006年)~

Image titleテキーラ村のブルーアガベの畑(在日メキシコ大使館提供)
山本:なぜ世界遺産となったのでしょうか。

大使:まず、テキーラについてですが、フランスのシャンパーニュ地方のシャンパーニュと同様に原産地呼称が認められています。ブルーアガベを主原料にしていても、ハリスコ州グアダラハラ市テキーラ村と周辺の蒸留所でつくられなければ、テキーラと呼ぶことはできません。
約2000年前からテキーラ村のテキーラ火山の麓では、ブルーアガベを用いたプルケを含む発酵飲料や織物がつくられており、アガベは様々な形で人々の生活に応用されていました。現在もメキシコの伝統文化に欠かすことができません。
16世紀にスペインが蒸留技術を持ち込んだことで、醸造酒であるプルケから蒸留酒であるメスカルやテキーラの製造が始まりました。その後テキーラは世界中で飲まれるようになり、テキーラ蒸留所も増えました。多くの蒸留所が赤茶色のレンガやクリーム色の漆喰でつくられた新古典主義(ネオクラシック)建築やバロック様式の装飾でつくられています。

Image titleテキーラ蒸留所でピニャを運ぶヒマドール。(在日メキシコ大使館提供)
山本:テキーラはどうやってつくるのでしょうか?

大使:アガベは10年ほどかけてメキシコの大地で大切に育ててから収穫します。収穫の際、ヒマドール(アガベを収穫する人)により根元から掘り起こされ、葉を切り落とされます。パイナップルのような外観の「ピニャ」という球状の根茎のみを使用します。
アガベは釜で二日間ほどかけてじっくり加熱することで、根茎のデンプン質を甘味のある糖分に変換させます。このアガベを粉砕し、抽出したジュース(モスト)を濃縮したものがアガベシロップです。アガベジュースをアルコール発酵させ、2回蒸留することでテキーラができます。
テキーラはボトリングする時点での熟成年数の違いにより「ブランコ」「レポサド」「アニェホ」の3種類があります。

Image titleテキーラ。左から熟成の長い順に「アニェホ」「レポサド」「ブランコ」

テキーラ、メスカルの楽しみ方

山本:(ランチでいただいた)テキーラ3種類すべて、味わいが違いますね。
大使:テキーラもメスカルも、そのアロマ(香り)と味をゆっくり楽しみましょう。

Image titleグラスに注がれたテキーラ
メスカルは、昆虫をすりつぶした粉末と塩をまぜたものを「あて」にして飲むことがあります。たとえば、このライムに昆虫ソルトをつけて口に含みます。そのあとにメスカルを飲んでください。メスカルだけのときとは異なる、コク、旨み、苦味が広がります。メキシコには昆虫食の文化があります。

Image title昆虫粉末入りの塩。チレ(唐辛子)なども含まれている。
テキーラはストレートで飲むだけでなく、世界中で様々なテキーラカクテルが楽しまれています。たとえば、オレンジジュースとグレナデンシロップと合わせた「テキーラサンライズ」、ホワイトキュラソーとライムジュースと合わせた「マルガリータ」、グレープフルーツジュースと炭酸水と合わせた「パローマ」などです。

山本:最近ではプレミアム・メスカルも人気が高まっているとお聞きしました。

大使:テキーラとメスカルの違いを簡単に説明しますと、メスカルというアガベの蒸留酒の中にテキーラが含まれます。テキーラが高級でメスカルが安価品、ということではありません。メスカルはテキーラと異なり、産地や原料のアガベに指定がありません。メスカル蒸留所は小規模ですが、高品質なものを少量生産しているところが多く、個性あふれるメスカルを生産しています。こういったプレミアム・メスカルも知られるようになりましたが、生産量が少ないために輸出量が限られています。

Image titleメスカル(奥の6本のボトル)。手前は3種類の昆虫ソルト。(ICEJ提供)
大使:テキーラとメスカルでは、飲むときの器も違います。伝統的にはテキーラはガラスの器で、メスカルはヒョウタンの一種の殻をカップ状に整えた「ヒカラ」で飲みます。ヒカラはハンドメイドで、オアハカ州のものが有名です。

Image titleメスカル・カップ「ヒカラ」。黒く色付けされ様々なモチーフが彫られている。

Image title様々な柄のメスカル・カップ「ヒカラ」(ICEJ提供)

メキシコのスーパーフード、アガベシロップ

山本:最近、日本でのアガベシロップの認知度があがってきました。低GI(グリセミック指数)で健康によく、粘度が低くサラッとしているので使いやすいです。カラメルのようなコクのある風味もいいですね。
※GI=グリセミン・インデックス。食後血糖値の上昇度を示す指標。

Image titleノパールとアボカドのムース、アマランサスとアガベシロップ。砂糖のかわりにアガベシロップで甘味を加えている。メスカル・カップのヒカラをデザート器としてアレンジ。
マーラ・マデーロ大使夫人(以下、夫人):アガベシロップは他の甘味料とくらべてGIが低いので、急激な血糖値の上昇を防ぎます。また、水溶性食物繊維のイヌリンも含みます。イヌリンは糖の吸収を防ぐことで血糖値の上昇を防ぐので、糖尿病の予防に効果的です。また、イヌリンは整腸作用にも優れています。善玉菌を増やし、老廃物の排出を促進します。
最近はアガベのイヌリンを抽出したイヌリンファイバーも販売されています。無味無臭なので、お料理やドリンクに手軽に加えることができます。満腹感を増加させることから、ダイエットにも効果的であるとされています。

Image titleマーラ・マデーロ大使夫人

アガベの健康効果

山本:アガベは古来より薬用植物としても用いられてきたそうですね。メキシコやアメリカの研究者らも、その科学的なエビデンスをとっています。骨粗鬆症の予防に効くという報告もありますね。

夫人:最近の研究結果から、アガベの様々な健康効果が証明されています。たとえば、血中のコレステロール値を下げ、特定の癌の発症率を抑え、カルシウム・マグネシウム・イソフラボン等のミネラルや栄養素の吸収を増加させる効果があります。
消化器系の疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎および過敏性腸症候群に特に有用です。また、カルシウムを多く含んでいるため、骨粗しょう症などの骨疾患を防ぎます。滋養強壮にも役立ちます。
アガベエキスは抗炎症・抗菌成分が含まれているので、傷口の治療やスキンケアとしても用いられてきました。アガベシロップは保湿効果にも優れています。その昔メキシコでは、アガベの絞り汁をそのまま化粧水として使いました。アガベシロップをそのままニキビに塗ったり、アガベシロップと塩を混ぜたもので顔パックする人もいます。アガベはアンチエイジング、美容効果も高いのです。
近年発売されているスキンケア化粧品の中にも、アガベシロップやアガベを発酵させたエキスが配合されているものがあります。
※アガベ由来の原料の化粧品表示名称は「アオノリュウゼツラン茎エキス」など

非常に有効性の高いアガベは、テキーラやアガベシロップのような食材の原料として、民間療法に用いられてきました。また、丈夫な繊維から布をつくります。このようにアガベは、メキシコの人々の生活・文化に欠かすことができません。
次回の最終回では、メキシコの伝統的な食文化である昆虫食についてご紹介する。国連食糧農業機関(FAO)が食糧危機の解決策として昆虫食を挙げたことから、世界的な注目が高まっている。
協力:在日メキシコ大使館、在日メキシコ政府観光局

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