「ポスト資本主義社会」を実現させるーネクストコモンズ・ラボの挑戦

2017.7.14

注目のイノベーター集団「ネクストコモンズ・ラボ」が目指すのは、国家でも資本主義でもない、新しい社会。いったいそれはどのような社会なのか。代表の林篤志さんに話を聞いた。

ビールが好きでも、原料であるホップがどこで作られているのか知るひとは少ないだろう。

日本でホップ生産量トップは岩手県にある遠野市。しかし、高齢化や後継者不足などが理由で、遠野市のホップ生産量は全盛期の4分の1まで減少してしまった。

しかし、いま遠野市は優秀な若者の誘致に成功し、ホップ生産地から「日本一クラフトビールが飲める場所」に変貌しようとしている。

やる気のある若者が地元資源を活用して地方を活性化する取り組みは、遠野だけなく石川県の加賀や宮城県の南三陸など日本各地さまざまな場所で起こり始めている。

こうした取り組みを加速させているのが昨年日本財団「特別ソーシャルイノベーター」に選出され注目を集めるネクストコモンズ・ラボだ。

その取り組みの特徴から、地方創生の文脈で語られることが多いネクストコモンズ・ラボだが、ゴールは地方創生ではなく、「ポスト資本主義社会」を具現化すること。

今回、ネクストコモンズ・ラボ代表の林篤志さんに、ネクストコモンズ・ラボを立ち上げた経緯から現在の取り組みがポスト資本主義社会にどうつながっていくのか、そして目指す新しい社会とはどのようなものなのか話を聞いた。

 


林篤志
2009年に「自由大学」、2011 年に高知県土佐山地域に「土佐山アカデミー」を創業。2015年、地方への多様な関わり方を生みだすコミュニティ「東北オープンアカデミー」を開始。昨年の夏から遠野の山奥に拠点を持ち、日々全国各地を行き来している。合同会社paramita 代表、NextCommonsLabファウンダー。

国家でも資本主義でもない新しい社会システムとは?

—ネクストコモンズ・ラボでは遠野など地方での取り組みに力を入れていると思いますが、その取り組みの軸はどのようなところにあるのでしょうか。

ぼくたちの取り組みの多くは地方なので、地方創生だったり地域活性化の文脈で見ていただくことが多いです。ただ、それは結果論であって、ゴールは「ポスト資本主義社会」をつくることなんです。

そのための仕組みやプラットフォームをどう作っていくのかということが軸にあり、遠野などのプロジェクトはその一環になります。

—ポスト資本主義社会とはどのようなメッセージでしょうか。

いまの社会が抱える問題は、人口減少、少子高齢化、過疎化など挙げればきりがないですよね。

こうした問題を、これまでさまざまな人々ががんばって解決しようとしてきた。でも、なかなか改善してこなかった。

一方で、多くのひとびとは時間が過ぎれば問題は解決していくだろうと思っていたはずです。でもこの数年、社会が良い方向に向かっているかというとそうではない。

過労死、子供の貧困、格差問題などは改善されず、生きにくいと感じているひとは多いと思います。

なぜ良くならないのか。

大多数のひとびとは、2つの大きなシステムの上にのっかって生きています。1つは国家、もう1つはグローバル資本主義。

国家システムのもとでは、民主主義の名のもとで多数決で政治家を決めて再分配している。多数決の民主主義がどれくらい実体を反映しているのか、そしてどれくらい意味があるのか疑問に思います。

資本主義システムでは、小さな資本をどれだけ大きくするかという原理で動いている。このおかげで安く高品質な商品が手に入り、このシステム自体はよくできていると思います。

ただ、お金がないと暮らしていけない社会になってしまった。

当たり前すぎて誰も疑わないけど、お金がないと家を借りれない、ごはんも食べれない。唯一無二のルールがあって、ほかに選択肢がない。

いままではこの2つの大きなシステムを変えようと、いろんなひとが試みてきたけど変わらなかった。

ぼくもこれまでいろんなプロジェクトを通じてやってきたつもりだったけど、結局変わらないなと痛感して。

だから、アプローチを変えようと。大きな2つのシステムを変えるのではなく、新しい社会構造をつくればいいじゃないかと。

どういう社会構造かというと、昔の村のような相互扶助がありながら、煩わしさのない社会システム。新しい時代にアップデートされた共同体のことです。

新しい社会では、共通の価値観や目的をベースとしてひとが集まりコミュニティをつくりだす。

ただ、昔の村のような煩わしさはなくて、誰もが複数のコミュニティに属して、自由に出入りできる。そこに各自がルールやシステムをつくってもいい。

こういうコミュニティを各地に無数につくっていく。そして、いろんなひとがコミュニティを立ち上げられるベースをつくることが最終形態になります。

そのプロトタイプをつくっていこうというのが、いまやっていることです。

—なるほど。国家と資本主義システムの外側、対立しないようなポジジョンということですね。

2つの大きなシステムを否定するのではなく、これらも1つのコミュニティだと考えて、同時並行に進んでいく状態がいいと思っています。いまの資本主義をひっくり返すのではまく、補完するシステムをつくることを第1に考えようと。

そして、そのプロトタイプ・プロジェクトを地方自治体、企業、起業家、クリエイターなど新しいものをつくっていきたいと考えているひとたちと一緒に実施している段階になります。

地方が絡む場合は地方創生や地域活性化という流れに乗って、仕組みづくりをしています。遠野や加賀でのプロジェクトはそれにあてはまります。

ポスト資本主義社会実現に向けてネクストコモンズ・ラボが果たす役割

—新しい社会構造をつくるために多くのプレーヤーが関わっている。そのなかで、具体的にネクストコモンズ・ラボはどのようなことをしているのでしょうか。

ネクストコモンズ・ラボには基本、インキュベーション、コミュニケーション、インフラの3つの機能があります。

インキュベーションとは、ネクストコモンズ・ラボのプロジェクトに携わってもらえる起業家の能力開発だったり、事業創出の支援です。

この先、働き方はもっと自由になって、フルタイムで会社勤務ということはほぼなくっていると考えています。副業であったり複業にシフトしていく。

だけどその働き方を実現するためには個人が自分の能力を開発して、周りのネットワークや地域資源を使って価値や仕事を生み出していけるような環境づくりをしなければいけない。

拡大を目指すのではなく、スコープメリットをどうつくっていけるのか、生み出していけるのか、ここをやっていきたい。

いまはそれを各地域のフィールドを利用して、起業家を集めてインキュベーションすることで実現しようと思っています。

その一環で、もともと総務省がやっていた地域おこし協力隊という制度を利用して、起業家誘致をしています。

2つ目のコミュニケーションでは、起業家どうしのネットワークをつなげる役割を担っています。

遠野もほかの地域もそうなんですが、起業家として来るひとたちは、もともと縁もゆかりもない。9割以上がIターンといわれるひとたち。

そのひとたちにとってどこに住むかはあまり重要ではない。誰とどんなことができるのかが一番重要なんです。

だからインターネットでは分からない深い情報を提供し、起業家がこのフィールドだったら、こんなチャンレンジができそうだなと具体的なロードマップ、ビジョン、プロジェクトを描き、こういうチャンレンジだったらこういう仲間と一緒にできそうだなというところまで描ける環境をつくろうとしています。

3つ目がインフラ。

ぼくたちは特定地域での移住者や定住者を増やすことを目的としていなくて、もっと流動的なひとの流れを生み出したいと考えています。日本の人口が減っているなかで、取り合いをしても意味がない。

理想は、ひとが能力を最大限発揮できるスパンとタイミングで住めるインフラをつくることです。

ずっと長く住んでいるから力を発揮できるというひともいれば、3年ごとに移動したいひと、普段から2拠点生活をしているひとなどさまざまですから。

そのために、全国各地にある廃校、空き家をリノベーションして、誰もが自由に滞在して、その地域の資源とマッチングして仕事を生み出せるようなハード面のインフラを整える。

これらを全部包括して、つなげて、運営していくのがネクストコモンズ・ラボの機能になります。

ネクストコモンズ・ラボのプロジェクト ブロックチェーンの活用も

—これまで具体的にどのようなプロジェクトが立ち上げってきたのでしょうか。

第1号は岩手県遠野市で、10個のプロジェクトが立ち上がりました。

昨年夏に起業家を募集し、83名の方にエントリーしていただいて最終的に15名を採用しました。

各々が作成した事業計画をもとに、それぞれ市役所やパートナー企業と連携して、プロジェクトを進めています。

パートナー企業として参加していただいているのは、ロート製薬、キリンなど。

そのプロジェクトの一つが、ホップ生産日本一だった遠野を、日本一クラフトビールの飲める場所にしようというプロジェクトです。

キリンも携わるこのプロジェクトでは、街の真ん中にブリュワリーをつくって、そこで遠野のホップなど地域資源を使って新しいビールを開発していきます。また、街中の空き店舗を利用したマイクロブリュワリーでクラフトビールを飲み歩きするようなビアツーリズムができないかとチャレンジしています。

遠野市にはもともとホップ農家が130戸以上あったのですが、いまでは30戸以下まで減ってしまいました。主要産業が衰退して困っていると状況です。

一方、キリンはどうかというと、人口減少や若者のビール離れが進む中、地域資源を活かした新たな展開を模索していました。

遠野のプロジェクトは、双方の課題を解決しようと開始されたものなんです。

このほかにも、ロート製薬と地元の発酵プロフェッショナルが一緒になって、地元の発酵・熟成品を開発するプロジェクトや低コストのモバイルハウスを開発するプロジェクトなど多岐にわたります。

プロジェクトを行なう場所も、遠野から始まり、いまでは加賀、奥大和、南三陸と増えてきました。今年中には計10カ所に増える予定で、2020年までに100カ所にしたいと考えています。

点を増やすだけでなく、それらが繋がってインフラとして機能することが重要です。

それと同時にブロックチェーン技術と仮想通貨を活用して、貨幣経済に依存しない仕組みをつくることも考えています。

いままでは、子育てや介護など生活上の課題やリスクは、家族で支えるか、お金を使って解決してきました。

新しい仕組みでは、共通の価値観を持っているひとたちの間や地域コミュニティ内で個人リソースを可視化してそれを交換します。

つまり、余っている時間や、余っている能力を地域内で循環させ、共助を可視化させるということです。

インフラが整って、この新しい通貨システムができれば、もしかすると月5万円で生活できるようになるかもしれません。いま月30万円で生活しているとすると、そのうち25万円分は地域内の相互扶助でなんとかできる。あとは、5万円の外貨を稼げば豊かに生きていけますという状況をどこまでつくっていけるのか、今年から実験的に実施する予定です。

いまは「ポスト資本主義」と聞いてぴくっとなるひとを惹きつけるフェーズ。今後もこういう活動を進めて、一緒にやっていくメンバーを増やしていきたいと思います。

取材・執筆 :

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