「人間」を理解することが未来を作るーー石黒浩教授が考えるクリエイティビティー

2017.1.19

『CATALYST』の監修者、渡辺とも対談した日本のアンドロイド研究の第一人者である大阪大学の石黒浩教授が、デジタルコンテンツの祭典「デジタルコンテンツEXPO 2015」のセッションに登壇した。
そこで同氏が語った、技術者が未来を作れるほどクリエイティブであり続けるために必要なこと、実践している研究のスタイルについて本記事ではお届けする。技術者にかぎらず、新しいことを仕掛けていきたいひとにとって刺激的な内容だ。

技術者が向き合うべき2つの基本的な問題

石黒教授は、最近の多くの学生に対して、自分が入る大学や学科を偏差値だけで選んでいるという印象を抱いているそう。
良い大学に入って、大企業に勤めるというレールに乗るのは、たしかにこれまで多くの学生にとっての理想のキャリアだったかもしれない。しかし同氏は、いまはそういう時代ではなくなってきていると言う。

「日本がこれから豊かな生活を送るためには、アメリカの真似をしてモノを作るのではなく、本当にクリエイティブなところで努力や勝負をしていかなければなりません。たとえば、これまでは大学卒業後に大手企業に就職して敷かれたレールを進むことが学生にとっての理想とされていたかもしれませんが、これからは人生の選択をするような重要な局面において、より自分の可能性を試してもらいたいと思います」

クリエイティビティーで勝負を仕掛けていく際、特に技術者が向き合わなければならない2つの基本的な問題があると石黒教授は言う。
一つは、「誰が未来を知っているのか」ということ。「これは私ではなく、アラン・ケイの言葉ですが、『未来を予測する最善の方法は自らそれを創りだすこと』というのがあります。”未来”とはクリエイティブな人間が ”こういう未来を作ります” という提案をして、実現した状況のこと。つまり、未来は技術者やクリエイティブな人間にしか分からないのです」
さらに、「人間と動物の違いは、技術や道具を使えるか、そして社会的な生き物であるかどうか。古来から人間の進化と技術の進歩はワンセットとして考えられていました。人間がモノを作って売ろうと思ったら社会を見なければなりませんし、社会を無視すれば知能も発達しない。つまり、”人間の未来を作るクリエイティビティーとは何か” という問いへの答えは “社会” にあるのではないかと思います」
もう一つの基本的な問題は、「自分や人間の生きる目的とは何なのか」ということ。お金を儲けることなのか、ご飯を食べることなのか、それとも他に何かあるのか。もしも、より深い目的を持っているのであれば、挑戦するネタはいくらでも見つかるはず。石黒氏にとっての目的は、世の中で広く使われるロボットを作り、ロボット社会を実現することなのである。

研究やモノづくりにおける「新しさ」とは何か

石黒教授は、「研究」というものを誰も知らない新しいことを発明することと定義する。
そして、技術者がいろいろなものを研究し、モノづくりをしていくためには、新しい「概念」を作るということが大事だと言う。なぜなら製品の寿命というもののは永遠ではなく、たとえ一つヒット商品を生み出したとしてもそれだけではやっていけないからである。
その新しい概念を作る過程において、「研究や作ろうとしている製品が属する分野がすでに明確な場合は、それは実は新しくない。本当に「新しい」ものというのは、それが何者なのか分からないものなのです。”私はロボットの研究をします” と言った時点で、そのひとは半分研究を諦めているのと同じ」だと同氏は語った。
つまり、技術者がクリエイティビティーで勝負を仕掛けるためには、初期の段階においては明確な定義付けができない、答えが見つかるか検討がつかないことを研究し続ける必要があるのだという。

求められる「ボーダーレス」な研究スタイル

「私にとって、このロボットの研究というのは、メディアの研究です」と石黒氏。

その真意は、「人間と接するメディアとしてのロボット開発において重要なのは、”人間らしくある” ということ。これまでのメディアやコンピュータなどそういった類のものは、すべて人間を認識できるように作られています。なぜなら、人間にとって最も理想的なインターフェースは人間だからです」。同氏にとって、ロボットの研究=メディアの研究=人間の研究なのである。
では、人間を知るためにはどうすればよいのか。石黒氏曰く、脳科学や認知科学だけではそれは難しい。「それらの分野は脳の機能に着目する一方で、脳の全体的な働きはなかなか見ることができないから」。このことを踏まえ同氏は、哲学なども含めてまったくボーダーレスで研究をしている。そしてこのような研究のスタイルは、今後ロボット以外の分野、製品においてもますます起こっていくと言う。
例えば、自動車や冷蔵庫など家電の業界においては特に、技術者は「こういうものを作ったほうがいい」という要求がはっきりしている中でいままで開発をしてきた。しかしこれからは、人間ははっきりとは要求を出さないけれども、人間に受け入れられるようなもの。スマートフォンのように特に無くても困らないけど、一度適応してしまうとなかなか手放せないものを開発することが求められるようになるからである。
だからこそ、これからは「人間に関する深い知識を持ち合わせていないとヒット商品を作ることは難しい」。ロボット社会を実現することよりもむしろ、「人間を知ること」に関心があると明かす同氏はそう言い切った。
哲学者に技術者に研究者、そして石黒氏。さまざまなバックグラウンドを持つひとたちによるボーダーレスな関わり合いによって、私たちはこれからますます「人間」に関する新たな発見をしていくのかもしれない。

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