世界をひっくり返すプロジェクトに取り組む米国版2ちゃんねる発のコミュニティなど、シリコンバレーでは「新しい働き方」を示唆するコミュニティが誕生している。その実体に迫る。

シリコンバレーで「新しい働き方」を示すコミュニティの誕生
米国版2ちゃんねるから生まれたコミュニティが世界をひっくり返すプロジェクトに取り組んでいる。
「どんなコミュニティがどんなプロジェクトをやっているのか?」と少し気になったのではないだろうか。
いまシリコンバレーを中心に「新しい働き方」を示すコミュニティが誕生しているが、この米国版2ちゃんねる発のコミュニティもその1つだ。
コミュニティメンバーどうしが刺激しあい、知恵を共有し、新たなアイデアを生み出す空間は、サイバー空間にもリアル空間にもある。
今回『CATALYST』取材班がシリコンバレーで見た新しい働き方を示唆する2つのコミュニティを紹介したい。
米国版2ちゃんねるから生まれたコミュニティが「ハイパーループ」を実現!?
Tesla Motorsのイーロン・マスク氏が提唱した超音速列車「ハイパーループ」の実現に、オンライン上で結成された奇妙なチームが一役買うかもしれない。
2016年1月米テキサスで開催されたハイパーループの車両(ポッド)デザインを競う大会で、マサチューセッツ工科大学など並み居る競合と共に、唯一の「社会人チーム」として最優秀賞を獲得した「rLoop」だ。
この大会は「ハイパーループ・ポッド・コンペティション」と呼ばれ、2015年6月に開始された。
世界中から約1800チームが参加し、毎月ネット上で選定が行われ、2016年1月にテキサスで開催された本戦に出場する120チームが選ばれた。
本戦では80人の審査員が各チームのプレゼンを審査し、2017年に開催される第2回大会ファイナルへ出場できる30チームが選ばれた。
第2回大会では、デザインしたポッドを実際に作り走行させることが求めれる。
rLoopは2015年6月「米国版2ちゃんねる」と呼ばれるソーシャルニュースサイト「Reddit(レディット)」上で何者かが「ハイパーループを実現させよう」と呼びかけたことで始まったプロジェクトだ。
rLoopに参加するのは自由だ。
国、年齢を問わず、ハードウェアエンジニア、プログラマー、デザイナー、学生、定年退職者などさまざまなひとたちが参加している。
参加するにはrLoopのサイト上で必要事項を記入するだけ。
これまでの参加者は数百人に上る。現在は中心メンバー約40人、積極的に参加しているメンバーが約100人、計140人でプロジェクトを進めている。
日本からの参加者はまだいないものの、香港、台湾、インドなどアジアからの参加者は少なくない。
驚くのはこのチームが結成されてから2016年1月の大会までの約半年間、誰1人として実際に顔を合わせたことがないということ。
やりとりはSlackやGoogle Docsなどオンラインのみ。
時には数百人にもなるメンバーが実際に顔をあわせることなく、どのようにプロジェクトを進めていったのか気になるだろう。
rLoopエンジニアリング責任者のトーマス・ラムボット氏は「最初のほうはちょっとした混乱もありましたが、自然と参加者が適材適所を見つけ、その役割に責任を持ってプロジェクトを進めることができた」と語る。
rLoopエンジニアリング責任者トーマス・ラムボット氏
もちろん、これまで参加した数百人全員がプロジェクトに残ったわけではない。
1週間ほどで離れていった参加者も多かったという。
ラムボット氏自身昼間はNASAで働いている。
クレイジーなアイデアが好きで、RedditでrLoopプロジェクトを知りすぐに飛び込んだという。
ちなみに同氏は14番目のメンバー。
現在は、毎日夜中1時ごろまでrLoopシリコンバレーオフィスで、2017年の第2回大会で走行させるポッドの開発に没頭している。
メカニカルやソフトウェアなど、実際の車両開発は複雑で入り組んだ課題を解決していかなくてはならないが、世界中の知恵を結集すれば乗り越えることができるとラムボット氏は信じている。
複雑な課題を解決していく上でメンバー全員が現状を把握することは必須。
そのため主要なミーティングは、世界中のメンバーが参加できる毎週日曜日の午前11時(米西海岸時間)に行っているという。
rLoopはクラウドファンディングやスポンサー企業を通じて開発のための資金調達をしているが、基本的に利益は生まない非営利組織。また、ハイパーループの大会で賞金が出るわけでもない。なぜ世界中の多くのメンバーがrLoopに多大な時間と労力を惜しみなく投じるのか。
「世界中のさまざまなアイデアを持ったひとたちと会うことがとても刺激になるし、スキルアップにもうってつけのコミュニティだからです」とラムボット氏はいう。
rLoopは、インターネットを通じて世界中の知恵を結集し、世の中をひっくり返すようなことができる可能性を示している。今後、rLoopようなコミュニティが増え、世界を変革する原動力になっていくのかどうか非常に楽しみだ。
アクセラレーターでもコワーキングでもない新しい空間
シリコンバレーにはもう1つ注目すべきコミュニティがある。「Hacker Dojo」と呼ばれるテクノロジーハブだ。
Hacker Dojo
「Dojo」とは日本語の「道場」。
この場所を訪れる者が自身を鍛え上げる場という意味が込められている。
一方「Hacker」は、プログラマーなどソフトウェア開発者だけでなく「なにかを作り上げうまく機能させるひと」と広い意味が込められている。
そのためここには、ロボット開発やロケット開発などハードウェア開発に携わるひとたちも出入りしている。
世界中からシリコンバレーを目指しやってくるテクノロジストたちが情報集めやネットワーク作りを目的にやってくるため、ひとと情報の出入りは非常に激しい。
このため、さまざまな創発が起こりPinterestやWord Lensなど大きなビジネスを醸成する空間になっている。
いまや誰もが知る写真共有サービス・アプリのPinterestだが、その始まりはHacker Dojoだった。
Pinterest創業者たちはHacker Dojoができたばかりの2009年からメインオフィスとして使用し、Hacker Dojoネットワークを通じてエンジニアを雇い事業を本格展開させた。
いまやPinterestは従業員500人を超える規模にまで成長した。
Hacker Dojoの運営者の1人ジュン・ウォン氏は、この場所をアクセラレーターでもなく、コワーキングスペースでもないと説明する。
ジュン・ウォン氏
アクセラレーターとは、文字通りスタートアップが事業を加速させる仕組みのことだ。
通常は、期間が設定されたプログラム内でメンターと協力してビジネスを構築していく。
Hacker Dojoにはこうしたプログラムはない。
一方で、自発的に開催されるイベントで知識の共有やネットワーク作りがなされており、ビジネス構築の一環を担っている。
また、Hacker Dojoは誰でも自由に出入りできるため、コワーキングスペースとも異なる空間だ。コワーキングスペースは、毎月使用料を支払ったユーザーのみが使用できる。
一方、Hacker Dojoはカジュアルに誰でも出入りできるため、コワーキングスペースでは得ることのできない情報やネットワークを獲得することが可能だ。
ウォン氏が「一番エキサイティングなことは、新しいひとに出会い、新しい情報を知れること」というように、Hacker Dojoは、ひとをつなげ、知恵を結集する空間になっているのだ。
rLoopやHacker Dojoは「新しい働き方」を示唆するコミュニティの一例。
さまざまなひとを結びつけ、知恵を結集するコミュニティは世界にまだまだある。
テクノロジーの発展とともに変化する働き方がどのように変わっていくのか、自分で実践しながら考えてみると多くのことが見えてきそうだ。

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