ロボットは社会インフラや新しいツールとなり得るのか。ユニフォームでロボットの未来を切り開こうとする「ロボユニ」の挑戦をお伝えする。

最近、飲食店や小売店、駅や航空など至る所で見かけるようになった案内ロボット。数年前までは考えられなかった光景だ。
ロボットがこの数年でここまで普及すると予想できたひとはほとんどいないだろう。ロボットはまだまだ普及する。一家に1台、またはスマートフォンのように1人1台という世界になるかもしれない。
ロボットが進化していけば、サービス案内だけでなく、より高度な仕事をこなせるようになる。仕事帰りにロボットの同僚と飲み屋で愚痴を言い合うような光景も近いうちに現実となりそうだ。
さまざまなプレーヤーが試行錯誤を繰り返し、ロボットと共存できる未来を切り開こうとしているなか、アパレルという切り口からアプローチしているパイオニアがいる。
ロボット専用ユニフォーム「ロボユニ」を開発プロデュースしている泉氏だ。
昨年みずほ銀行が八重洲口支店未来型店舗に導入したPepper。
数台あるなかで法被(はっぴ)を着たPepperがいることに気付いたひともいるはずだ。
この法被を開発したのが泉氏。昨年からソフトバンクロボティクス、ソフトバンクと公式提携してPepper公式ユニフォームとして販売されている。
このほかにも大手自動車メーカーや航空会社など、Pepperを導入する企業ごとに標準モデルやテーラーメイドのロボットユニフォームを提供し注目を集めている。
ロボットとアパレル。
あまり聞かない組み合わせだが、この取り組みはロボットが社会により広く認知され、受け入れられるためのカギといっても過言ではない。
なぜロボットにユニフォームが必要なのか。ロボットにユニフォームを着せるとどのような効果があるのか。ロボユニ開発者、泉 幸典さんに聞いた。

泉 幸典 ロボットアパレルブランド「ロボユニ」開発者
人工知能やロボットは人間の仕事を奪ってしまうのか?
ーなぜロボット向けのユニフォームを開発するようになったのでしょうか。
そもそも人間のユニフォームを作るメーカーで執行役員をしていて米国シリコンバレーに日本のレストランユニフォームを広げに行こうと思ったのが始まりなんです。伊藤園の角野氏がお茶をシリコンバレーの巨大IT企業に導入したニュースを知り衝撃を受けました。
新規事業の1つとして米国市場を開拓しようと考えていました。実際、現地で活躍されている方々に支えられ、DELICAさん、炭家さん、ロサンゼルスANJINさん、TokyoTableさん、ニューヨークKyo-yaさん、ITOENさんなどの高級レストランでユニフォームを導入してもらえるようになりました。
そのとき、近江商人じゃないですけど、日本のものを向こうに持っていくと同時に向こうのものを日本に持って帰って、日本のユニフォームの未来を創出したいなと思っていたんです。
10年後、20年後を見据えて日本のユニフォームが世界市場でどのように突出していくべきなのかということ。
当初はシリコンバレーが最先端テクノロジーの集積地でもあるので、彼らが持っているようなテクノロジーを使って、IoTなどを活用した人間用のハイテクユニフォームを作れないかと考えるようになったんです。
ー具体的にどのようなアイデアだったのでしょうか。
既存のユニフォームにチップを搭載してGPS機能や顔認識や・音声認識機能を持たせて、今後の少子化による人手不足を見据えて少ないスタッフでも接客サービスを向上させるようなハイテクユニフォームです。
アイデアはいけると思ったんですけど、シリコンバレーに行って現地の人たちに話をしてみると、開発技術はあるけどそもそもそんな高価なハイテクユニフォームをアルバイトスタッフのために誰が買うのか?という根本的な課題に当時はぶち当たりました。
テクノロジーが搭載されて1着20万も30万円もするようなユニフォームをレストランのオーナーさんが本当に欲しいと思うのか、という話になって。
ー1着20万円は高いですね。
そうなんですよ。日本ではアルバイトが時給1000円とかで働いている。飲食業のひとたちからしたら、そんな高いユニフォームを着せるのなら、接客教育に使った方がよいのではないか、となるわけです。
そこで初めてハイテクユニフォームのアイデアは現時点では現実的ではないということに気付いて。
そのアイデアしかなかったので、かなり心が折れました。サンフランシスコから日本に帰ってくる飛行機のなかでもずっとへこんでましたね。
サンフランシスコで会ったひとたち20人中20人に「それ誰が買うの?」って。まさしくその通りだなと。
それでも考え方自体はそんなに悪くないと思って、そもそもどうして自分がハイテクユニフォームをつくろうとしたのか、思考を遡ってみることにしたんです。
すると、スマートフォンやロボットが広く普及していくなかで、台頭するテクノロジーに人間が負けないように、人間が持っているポテンシャルを引き出すためにハイテクユニフォームをつくろうと考えていたんだと思い出して。
スマートフォンとかロボットは基本計算間違いや注文間違いをしないじゃないですか。そうなると、人間に対する評価基準が変わってくるんじゃないかなと思ったんです。「ロボットでさえ注文を間違えないのに、お前はなにやってんだ」って。
ロボットをインフラ、ツールとして発展させるために何ができるか?
ーなるほど。そういうテクノロジーの台頭によって人間の仕事が減っていくというような危機感があった。ロボットユニフォームとは正反対のコンセプトのように思えますが、そこからどのように人間からロボットに焦点が移ったのですか。
その通りですね。180度考え方が変わったんですよ。
そもそもそういう先端テクノロジーを開発しているひとたちは、人間の仕事を奪おうとしているわけではなくて、社会を良くしていこう、より人間が人間らしい生き方をできる社会にしていこうという大きなミッションを持って開発されているということに気付いたんです。
それまでは人工知能やロボットを人間の敵のように捉えていたけど、実は人間がより豊かに生きていくためには、テクノロジーにもっと寄り添って付き合うべきなんじゃないかと。こうしたテクノロジーは、将来インフラや新しいツールとして、世の中に広がるんだろうなと考えるようになっていたんです。
一方で、ぼくはアパレル業界の人間なので、ロボットとかテクノロジーの状況を客観的に見ることができて、いまの状況を見ると世の中のひとたちのロボットに対する認識に違和感を感じてたんですよ。
つまり、ロボットをアニメとか映画の世界、ホビーの延長線上で捉えているひとが圧倒的に多いということなんです。この状況では、ロボット好きの趣味やオタクの世界で終わってしまい、インフラやツールに発展するのは難しいんじゃないかと考えるようになりました。
ーアニメとか映画のようなものではなくて、人工知能やロボットは社会の1パーツとして機能するということですよね。
そうです。たとえば、街中で人間が話しかけていないPepperをたまに見かけると思いますが、そこでは子供たちが「こんにちは」とか「いま何時?」みたいなことしか問いかけていない。
各企業で導入されているPepperのなかのソフトウェアは基本認定された様々なシステム会社さんにオープンソース化されているので、それぞれ企業オリジナルの開発をすることができます。
つまり、Pepperそれぞれに使命や個性があるということ。
自動車ショールームならオススメの車の説明をしてくれるし、銀行だったら整理番号を言ってくれたり、貯金の説明をしてくれたりしますよね。Pepperそれぞれに使命があるんです。
基本、どのPepperも白くて見かけは同じ。だから、世の中のひとたちは、Pepperそれぞれの個性があるのに、それを認識できない。
多くの企業でいろんなロボットが導入されていますが、一般のひとたちからするとそのロボットが何ができるのかなかなか分からないわけです。
その課題をユニフォームを使ってこの認識ギャップを埋めることができるんじゃないかと思ったんです。
実は、ちょうど150年前にも同じようなことがあったんですよ。
ー150年前という明治維新あたりですね。
江戸から明治に変わるとき、政治・社会混乱があったんです。伝染病が起こって、窃盗や人殺しなども多発した。そのとき、和服から洋服になって初めて政府がユニフォームを導入したんです。
それが、医者、警察、鉄道員の3つ。なぜかというと、誰が見ても白衣を着たひとがお医者さんだとひと目でわかるように、何かあったら警察とすぐに認識できるようにするため。
これが言葉や説明は一切いらない視覚的記号として機能したわけです。
人間はそれぞれはパーソナリティを持っていて、ユニフォームを着ていなくても「これは◯◯さん」って認識してもらえるじゃないですか。でもロボットは量産化されているから、見た目がすべて同じ。
同じロボットが複数台並んだとき、これは案内係、これは販売係って認識できない。と考えたとき、実はユニフォームというものは人間ではなく、ロボットが着る方が適しているんじゃないかと思ったんです。
あとロボットに服を着せることで、人間社会により馴染ませることができるかもしれないと思いました。
服を着せることでロボットに愛着が湧いてくる。人間って愛着が湧くと大切にするじゃないですか。パーソナライズされる面もあって、自分の家族の一員のように受け入れて、長く大切に修理しながら使っていくと思うんですよね。
人間だけの家族のなかに犬とか猫とかペットが入ってきて、ペットが第2の家族になりました。これからは第3の家族としてロボットを受け入れる家庭も増えてくるはず。
日本のロボットは無機質なものではなくて、たぶん人間が本来持っている愛みたいなものが投影されていく可能性がある存在なんだと思います。
ロボットを社会インフラやツールとして発展させ、家族の一員として受け入れるような世界を目指す泉さん。後編は、ロボユニを導入した企業で起きたロボットと人間のコミニュケーションの変化など、未来を考える上で示唆に富む事例をお伝えする。

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