さかき漣ー人工知能小説『エクサスケールの少女』に込めたメッセージ#02

2017.2.15

話題の人工知能小説『エクサスケールの少女』。その著者、さかき漣さんへの取材後編。出雲の神話など歴史的要素をふんだんに盛り込んだ意図とは。作品に込められたメッセージとは。

シンギュラリティをテーマにした小説『エクサスケールの少女』

シンギュラリティをテーマにした話題の小説『エクサスケールの少女』。著者のさかき漣さんへの取材後編。

前編では、作品が誕生するきっかけを伺った。そのなかで取材中に出会ったさまざまな人物が個性豊かなキャラクターとなって作品に登場することが明らかとなった。

実在する人物をモデルにしたキャラクターが登場し、人工知能に関わる実際の議論が作品中でも展開される臨場感。

フィクションでありながら、人工知能のリアルをここまで突き詰めたこの作品にどのようなメッセージが込められているのか。

さかき漣さんのプロフィール 

作家。立命館大学文学部哲学科哲学専攻卒業。社会小説の既刊に『コレキヨの恋文』 (小学館/PHP文庫)、『希臘から来たソフィア』(自由社)、『顔のない独裁者』 (PHP研究所)他。2015年、株式会社ドワンゴとスタジオカラーの共同企画「アニメ (ーター)見本市」にて『顔のない独裁者』が短編アニメ化。2016年11月、新刊SF 『エクサスケールの少女』(徳間書店)発売。公式サイトはこちら

技術革新の未知なる影響を歴史から紐解く

ー作中では、万葉集や出雲の神話など、歴史的な要素が散りばめられていますが、どのような意図があるのでしょうか。

技術革新がもたらす社会的な影響は未知数です。特に、人工知能の発展やシンギュラリティはこれまでにないほど大きな社会的影響をもたらすと思います。

そのせいか人工知能が脅威になるのではないかと考えていらっしゃる方は少なくないでしょう。

ただ、私は技術革新による未知なる影響も歴史的な視点で冷静に見つめることが重要なのではないかと考えていて、それで出雲の神話とシンギュラリティを重ねて書きました。

出雲の神話には、ヤマタノオロチ退治と国譲りという、特に有名な2つの逸話があります。

当時、出雲の民は優れた製鉄技術を持っていました。
諸説あるのですが、一例として、より強じんな武力を欲していた大和が出雲を侵略し製鉄技術を奪い、それが大和朝廷の誕生につながったと解釈できると考えています。
つまり、製鉄技術という技術革新で、戦争が起こり、共同体が変革されたのではないかと。

人工知能やスパコンという技術革新が進みシンギュラリティが起きれば、その影響は甚大で、世の中は混乱するかもしれません。
ですが、歴史を振り返ってみれば、人間は多くの戦争や混乱を経験しながらも、なんとか乗り越えてきたことが分かります。

ーなるほど。技術革新による社会変革、それにともなう混乱をどう考え、乗り越えてきたのか歴史から学ぶということですね。

そうですね。

主人公の青磁(せいじ)は、優秀な頭脳を持つものの人格的にはダメ人間で、不幸な過去を経験したことから利己的で視野が狭く、いつも「完璧でいないと、成功しないと」と苦しんでいるんですけれど、そんな青磁に千歳(青磁の前に登場する謎の美女)は「そうじゃないよ、完璧じゃなくても大丈夫だよ。人間はくだらないし、失敗もたくさんしてきた、でもそれも乗り越えてきたよ」と言ってあげる。

これは、人工知能やシンギュラリティが怖いと感じている方々に伝えたいメッセージでもあります。

ー千歳は誰がモデルになっているんですか。

千歳は私なんです。優秀な美女というところは違いますが、中身の設定は私そのものです。

いつも私は作品中で、女性キャラに自分の言いたいことを何でも言わせてしまうんです(笑)

悪い意味ではない冷めた目線で技術革新を見ながら、「こんなもんだよ、大丈夫だよ」と言ってあげたいんです。

クリエイターとして見てみたい人工知能の進化

ーさかきさんは人工知能の進化やシンギュラリティをどのようなにイメージしているのでしょうか。

作品中では、青磁が「超マシーン」KIRAくんを開発しました。
でもこれは、SFで出てくるような感情を持った人工知能ではないのです。
すごく高度な機械として発達していきます。
情動に似たシステムを育てつつあるものの人間のような感情は持つにはまったく至らず、クライマックスのシーンで感情の部分は青磁が担います。

この超マシーンKIRAくんと青磁がBMI(ブレーン・マシン・インターフェイス)でつながり、シンギュラリティが起きる、というのを1つの解として描いてみました。

※BMI=コンピューターと人間の脳をつなぐ装置。現在すでにコンピューターと人間の脳をつなぐことに成功した実験は存在する。

でもこれはあくまで解の1つです。

本当はクリエイターとして、感情の持った汎用人工知能(AGI)を見てみたいと思っています。

ー作品中では、なぜ人工知能に感情を持たせなかったのでしょう。

今回さまざまな方を取材させていただいたなかで、人工知能に対する立場はいろいろあることが分かりました。

1つは、人工知能に人間のような感情を持たせるかどうかですね。
感情を持たせようと研究されている先生方がいる一方で、感情は必要ないと考えられている先生方もいらっしゃいます。

全脳アーキテクチャを研究されている高橋先生(理化学研究所)は前者ですし、松田先生は後者です。

どの研究者の方にも敬意をもっているからこそ、作品中では両者の折衷案としてこの解にたどり着きました。

ー作品を読むことが、人工知能に感情を持たせるかどうかという重要な議論を考える出発点になりそうですね。

人工知能の進化、シンギュラリティに期待すること

ー人工知能やスパコンの発展、そしてシンギュラリティ、これらにどのようなことを期待していますか。

物理的な悩みがほとんどなくなるのではないでしょうか。

過去も現在も、人間の悩みは多くが物理的な制約から生まれていると考えられます。

貧困、病気、仕事、容姿、恋愛、友情、などですね。

容姿に関して言えば、アンチエイジングの特効薬か遺伝子治療が発明されたら老化の悩みはなくなりますよね。
化粧品も整形も必要なくなる。
もっと安全で根源的な方法が開発され、髪や肌や目の色、身長や体形など、自由に外見を変えられるようになるでしょう。そうなると外見による差別もなくなるかもしれません。

※レイ・カーツワイル氏は近い将来、人工知能やナノテクノロジーの発展で不老不死や外見変化の自在コントロールが実現すると予測している。

これまで人類の歴史は、こうした物理的な悩みを解決するための技術を開発しながら発展してきたと思います。

作品中に万葉集が出てきますが、万葉集の歌の中身は当時のひとたちの悩みなんですね。こうした悩みは現代日本人の私たちと同じなんです。恋愛、病気、仕事の悩みなど。

だから人間は長い歴史のなかでずっと同じ悩みを持ってきたことになります。

こうした物理的な悩みをすべて解決してしまう可能性があるのがシンギュラリティではないかと思います。
作品では、シンギュラリティという技術革新がどれほど大きな影響を与えるのかを歴史から、そしてその過程から学ぼうというメッセージを込めています。

人工知能やスパコンの進化、そしてシンギュラリティと技術革新が社会に与えるインパクトは計り知れない。
それを脅威として見るのではなく、この技術革新どのように考え、行動すべきか、建設的な議論の出発点を歴史的視点から教えてくれるのが『エクサスケールの少女』。
ぜひ手にとって、人工知能のリアル、そしてその可能性を体感してほしい。

※5冊限定『エクサスケールの少女』をプレゼント!!!

応募はこちらから 締め切り:2017年3月14日

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