大前学氏が読み解く「自動運転」テクノロジーの未来#02

2017.3.9

過度の期待と注目を集めユーフォリア状態にある「自動運転」テクノロジー。
第一線研究者の視点から、自動運転の過去・現在を鑑み、地に足の着いた観点で未来を考えてみたい。

「自動運転」の進化の方向性

自動運転分野の第一線で活躍する日本人研究者の視点から「自動運転」というテクノロジーを再考する今回の企画。

自動運転分野で20年以上の経験を持ち、現在第一線で活躍する日本屈指の研究者、慶應義塾大学政策・メディア研究科の大前学教授に話を聞いた。

前編では、移動の進化という広い視野で見たとき、いまは自動運転車にバイアスがかかりすぎていると指摘した大前教授。

後編となる今回は「機械の正常進化」という切り口から「自動運転」の進化を考えてみたい。

プロフィール
大前学 慶應義塾大学政策・メディア研究科教授
東京大学大学院在籍中の1995年から自動運転車の研究を開始。2000年同大学博士課程修了後、慶應義塾大学環境情報学部助手に着任。自動車制御システムの高度化などを通じたモビリティの可能性を模索している。2013年から現職。

カオス状態を生み出した「自動運転車ブーム」とその背景

ー先ほど(前編)、多くのひとがドライバーのいない無人の完全自動運転車を自動運転車の最終形態と考えている一方で、大前教授はそれが正しい方向であるか分からないとおっしゃいました。大前教授が考える自動運転車の進化の正しい方向とはどのようなものなのでしょうか。

自動運転車の進化を考える前に、そもそも昨今の自動運転ブームが起こったのはなぜかということを考えたいと思います。

そもそもの発端は、2000年くらいに米国が地上戦闘車両の3分の1を無人化するという計画を発表し、それにともない米国国防高等研究計画局(DARPA)が自動運転レースを開催したことにさかのぼります。

そのレースでスタンフォード大学やカーネギーメロン大学が好成績を残し、グーグルがそのチームや技術を買収し、自動運転車の開発を本格化させることになりました。

ここで日本は相当な危機感を持ったわけです。

なぜなら、日本の基幹産業である自動車で競争優位を失うのではないかと考えたからです。

それで基幹産業を守るために、自動運転もやっていかないとダメだという空気になり日本でも、2013年に成長戦略に自動走行技術の開発が挙げられるようになりました。同年先進技術の見せ場でもある東京オリンピックの2020年開催が決定し、昨今の自動運転ブームにつながっていきます。

ただ、オリンピックを前にしてさまざまな自動運転プロジェクトが立ち上がり「自動運転」という言葉がさまざま意味で捉えられるようになって、いろんな方向に逸れていってカオス状態になっているわけです。


研究室の自動運転車

自動運転テクノロジーの「正常進化」とは?

ーなるほど。ドライバーをアシストする自動運転技術も無人の完全自動運転車もまとめて自動運転車と呼ばれている。では、研究者の立場から見る自動運転の進化とはどのようなものでしょうか。

自動車というのは100年以上前に登場し、現存している機械なわけですが、誰でも買えて、利用できるもので、ここまで沢山の人が死傷する機械は、自動車以外にありません。

日本での自動車事故による死亡者数は減ってきましたが、依然として世界では交通事故で年間120万人のひとが亡くなっている。

こんな危険なものが野放しになっている状態なんです。消費者の力が強いこの時代において、おかしなことなんですよ。

そういう意味で、自動車もいまの時代のほかの安全な製品のように、ひとが死んだり、怪我したりしないようにしていくのが「機械の正常進化」だと思います。

だから、自動運転できるぐらいの認識・判断システムでドライバーが安全に運転できるように手助けするというのは合理的であると考えますが、運転が不要な完全自動運転が本当に安全かどうかはまだわからないのです。

完全自動運転車ができると、新しいサービスが生まれ、雇用も創出されるという期待感から、自動運転の究極ゴールに位置付けられているともいえます。

ただ、その進化過程でどこが一番安全なポイントなのかは分かっていないのです。

ー2020年のオリンピック前後では、自動運転はどのような進化を遂げているとお考えでしょうか。

オリンピックまでには高速道路を手放しで運転できるようにはなるでしょう。

そこから先は少しずつ自動運転の適用範囲が広がっていくと思いますが、どこかのポイントでこれ以上やってもかえって人間の運転能力を損ない、マイナス面が目立っていくようになれば、その行き過ぎたところから少し戻ったところで落ち着くと思います。

デッドマンシステムは確実に出てくるでしょう。これは、ドライバーが運転中に心臓発作やてんかんで身体は動かないときに、自動で安全な停車を可能にするシステムです。

高齢者などに起こりがちな踏み間違いなど明らかにおかしな動作を止める装置も普及するでしょう。

ぼくはこの辺が落とし所かなと思います。高速道路は、一般道と違い巻き添えにするものが少ないので。一方で、一般道を無人車が時速50キロとか60キロで走っているのは考えにくいです。当然、人間が乗って、アシストシステムとして機能するなら一般道でもあるでしょう。

あとは、国の予算で実施していて、ぼくも参加している「ラストワンマイル自動走行」というプロジェクトが目指すように、過疎地など高齢者が多い地域で移動の手助けをする低速の自動走行車が走っているかもしれません。

このプロジェクトをはじめ「ラストワンマイル自動走行」には力を入れていて、採算がとれるかなども含め、来年以降から実証実験を行っていく予定です。

大前教授と春休みも熱心に研究している研究室メンバー

取材・執筆 :

シゲキ的?

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