自分のアンドロイドと共生したとき、人間は自分を客観視し始める#01

2017.1.19

アンドロイド研究の第一人者、大阪大学の石黒浩教授と『Catalyst』の監修を務める渡辺健太郎の対談を、前編・後編の2本立てでお送りする。
石黒教授は「アンドロイド」と呼ばれる人間酷似型ロボットを研究し、これまでに何十体も生み出してきた。そして、自分のアンドロイドとの共生の実践者でもある。
自分のアンドロイドと共生することで、人間の身に何が起こるか。「ロボットと人間の未来」について2人が語る。

自分のアンドロイドを所有すると自分を客観視し始める

渡辺健太郎(以下、渡辺):石黒先生は「双子」という意味のアンドロイド「ジェミノイド」を開発し、その見た目に自分を沿わせるよう整形やダイエットをされていますね。ジェミノイドを所有したことで自身の行動が変わったということでしょうか。

石黒浩(以下、石黒):はい。行動が変わったのは、僕のアンドロイドである「ジェミノイド」が、僕のアイデンティティであるからです。「彼」(石黒教授のアンドロイド)は、僕の研究成果です。今日ここにあなたが来たのも、彼のモデルが僕だからでしょう。みなさんが僕に注目する理由はそれなんです。そして渡辺さんは僕のジェミノイドを見たいと思っているでしょうが今日は見せませんよ。なぜなら、今日は彼の取材ではなく「僕」の取材ですからね(笑)。
彼は僕のアイデンティティですから、ジェミノイド(彼)と僕を切り離すことはできません。さらに言うと、ロボットの研究者が自分のアンドロイドを研究成果として作るということは、ロボットに自分のアイデンティティを置き去りにしてしまうということなんですよ。
大抵の取材のテーマが「アンドロイド」なんですが、これって僕にとってすごく失礼なことなんです。だって、どちらに興味があるかと尋ねて「アンドロイドに興味がある」というわけですから。「僕」に興味があるならアンドロイドの話はしないはずですよね。
第三者に「アンドロイドとは似ていない」と言われることは、自分を否定されるのと同じ。とても気分が悪くなるんですよ。人間はアンドロイドと違って年を取る生き物ですので、どうしても似なくなってしまう。
それに抗うために、アイデンティティを持った自分のジェミノイドに自分を似せようと、整形やダイエットをして日々努力しているわけです。自分のアイデンティティを保つために。

井上(ライター):石黒先生以外にも、自身がモデルのジェミノイドを所有しているひとがいると思います。その方々の「自分のアイデンティティ」に関する考え方はどのようなものでしょうか。

石黒:ジェミノイドを所有するということは、最も輝かしく可能性にあふれる時期の自分が、本当の「自分」とは離れて独り歩きしてしまうことを指します。
たとえば、芸能人のマツコ・デラックスとジェミノイド「マツコロイド」。マツコロイドは、マツコが出来ないこともできてしまいます。それを見てマツコは「少し怖い」と言っていました。つまり自分がモデルのアンドロイドを作られた人間は、アイデンティティを喪失していく可能性があるということなんです。
もうひとり、人間国宝の落語家、米朝師匠(桂米朝氏)のジェミノイドも開発しました。師匠は、自分が過去にはできていたが現在はできなくなった演技を自分のアンドロイドが簡単にやってしまうのを見るのがつらいと言っていました。自分が失った本来のアイデンティティをアンドロイドが維持できているということが苦痛だったのだと思いますよ。
このような考え方をするのは、彼らのような著名人、もしくは僕のようなアイデンティティがすでに確立されている人たちです。そのような人たちはアンドロイドに勝手にいろんなことをしてほしくない、もしくは自分をアンドロイドに似せたい、離れたくないと感じやすいです。
著名人の仕事はその場の空気を作ることですよね。その役割をアンドロイドに取られたら困るんですよ。つまり、自分のアンドロイドにおもしろいことをあまりやらせたくないと思うんです。僕の場合は、アンドロイドが賢くなればなるほど自分の評価が高まります。世間が自分のことを忘れるリスクこそありますが、研究者としての評価が高くなるという特殊な環境にいるからこそ、僕は新しいことに挑戦し続けられるのだと思います。

石黒教授の研究室にはテレノイドの模型が数多くある石黒教授の研究室にはテレノイドの模型が数多くある

渡辺:石黒先生やマツコ・デラックスのような著名人は、一般の人とは受け取り方が違うということですね。一般の人が自分のアンドロイドを所有すると行動はどのように変わるでしょうか。

石黒:2体目のアンドロイド(ジェミノイドF)を製作する際、そのモデルの女性にある選択肢を与えたんです。彼女は姿勢が悪かったので、それをそのままコピーするか、それともジェミノイドFは姿勢を良くするかということだったんですが、彼女は「良くしてほしい」と答えました。要するに、嫌な自分は見たくないということです。僕はアンドロイドの姿勢を良くする代わりに、その女性にも姿勢を良くすることを薦めました。すると、そのモデルの女性は姿勢を矯正したんです。
この結果から分かったことは、人間は自分を客観視できないということ。写真でもできるのかもしれませんが、それでは客体としての自分の存在感が弱過ぎる。でも、アンドロイドなら実体があるので存在感が強く、目をそむけることができません。さらにアンドロイドは、普段僕たちが鏡で見る左右逆転の「ニセの顔」の自分ではなく「真実の顔」を映し出します。

渡辺:アンドロイドを所有するということは、本当の自分を客観視できる状態に常に置かれているということですね。

自分を客観視できれば、人間は目標を高く保てるようになる

渡辺:しかし、ある程度努力して直せる範囲、例えば姿勢やちょっとした老いなどは数年で巻き戻せると思うのですが、それがもっと時間が経過した場合、非常に生々しく自分の老いを客観視してしまうことになると思います。すると、どういうことが起きるのでしょうか。

石黒:僕の場合は老いたと実感したら、自分を変えます。自分の研究のためにやっているので、若返るためにはあまり手段を選びません。少し努力すれば10歳若返ることなんて比較的簡単です。僕の整形を担当してくれている先生だって本当に若いんですよ。だってよぼよぼだったら信用できないでしょう。

渡辺:生身の人間がアンドロイドにあわせて対応できる範囲が広がっているということですね。

石黒:そうですね。映画スターを見れば分かりますが、アーノルド・シュワルツェネッガーって、いつまで経ってもアーノルド・シュワルツェネッガーじゃないですか。私と同じように若さを維持する努力をしているんだと思います。

渡辺:ということは、老いを自覚する場面はあまり無いということですか。

石黒:見た目に関しては。中身は老いを自覚しますよ。身体が動かなくなるとかね。しかし、人生には「大往生」という言葉があるじゃないですか。ずっと元気でいて急にぽっくり逝くみたいな。あれが僕の理想。あと外見が若くなれば、内面も若くなります。徐々に萎んでいくよりも、元気な状態でぽっくりいったほうが良いと思います。じわじわ死んでいくことのメリットなんて無いですから。

渡辺:自分を客観視できれば、よりアンドロイドに自分を近づけられるということですね。

石黒:いいえ。客観視できれば、より目標を高く保てるという感覚の方が近いかなと。だって、老いた自分なんて本当はあまり見たくないでしょう。自分を客観視できるアンドロイドがいれば、その年齢の頃の自分から大きく外れないようにしようと努力しますからね。

Iアンドロイドとの共生は自分と向き合うことを促すのかアンドロイドとの共生は自分と向き合うことを促すのか

渡辺:石黒先生は腹筋をされてかなり痩せられたそうですが、それはやはり自分が一番輝いている状態のアンドロイドがそばにいるからですか。

石黒:それもそうですが、一番の原因は世間に言われることです。強いフィードバックがあるからこそということですね。世間の人から「デブ」って指差されたら痩せようと思うでしょう。毎日「太った太った」と言われたら人間かならず痩せます。だって取材にくる度に写真と比べられているんですから。日々のプレッシャーに比べたら毎日腹筋100回することなんて容易いことなんです。精神的に追い詰められたら、人間何でもやろうと思うもんですよ。
例えば、毎日Twitterで自分の体重をさらして「痩せました、太りました」みたいなのやってみる実験なんてどうですか。太っても開き直るという図々しさを得るか、もっと痩せようとするかのどちらかだと思いますよ。自分に厳しい状況を作れば人間何でもできます。手っ取り早いのはごはんを食べないこと。それさえすればよいんですから。ちなみに、逆に過度な運動すると身体は老化すると思います。

渡辺:老化という観点では運動はよくないといいますよね。最近は、ダイエットのために食事の量を減らすという考え方をする人が増え始めています。

石黒:そう、食べなきゃいいんです。それか、少しずつ食べればいいんですよ。つまり、みんな自分の精神的な弱さをいろいろな理由に置き換えているだけです。そういうひとは何をやっても無理。「嘱託罵倒」なんてお願いしたらいいんじゃないですかね。お金を払って「ブス」とか「デブ」って毎日言ってもらうんです。そうしたらごはん食べなくなるでしょう。要は、ダイエットとかっていうのは、精神的な強さの問題なんです。
ただ、スポーツが好きとかは別ですよ。ここはごっちゃにしてはいけなくて、目的は何かが大切なんです。ダイエットをしているのに、その目的をスポーツが楽しいから、健康のためだからとか言うからおかしくなるんです。ダイエットをしたいなら、もうそれだけに突っ走れよと。要は周囲の目に自分をさらすのが一番手っ取り早いということです。

次回のテーマは「アンドロイドと人間のコミュニケーション」。石黒教授と渡辺が、社会学や認知学の観点から、アンドロイドが存在する社会でアンドロイドや人間がどのように関係を築いていくのか語ります。

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自分のアンドロイドと共生したとき、人間は自分を客観視し始める(前編)

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