石黒浩氏に聞くーアンドロイドと共生する未来に起こること#02

2017.1.19

アンドロイド研究の第一人者、大阪大学の石黒浩教授と『CATALYST』の監修を務める渡辺健太郎の対談を、前編・後編の2本立てでお送りする。
石黒教授は「アンドロイド」と呼ばれる人間酷似型ロボットを研究し、これまでに何十体も生み出してきた。そして、自分のアンドロイドとの共生の実践者でもある。
前編では「双子」を意味するアンドロイド「ジェミノイド」との共生を通して垣間見る、人間のアイデンティティの形成について議論した。後編では、社会的な認知によって人間の記憶は形成され、経験は共有されるという観点から、アンドロイドと人間が共生するためのヒントを探っていく。

生涯のパートナーとしてアンドロイドを選ぶこともあり得る

渡辺健太郎(以下、渡辺):石黒先生がスタッフをオーストリアに派遣し、その方が他人とのコミュニケーションがなかなか取れない状況下で、先生のアンドロイドと会話をさせたらすごく喜ばれたそうですね。

例えば、夫の単身赴任などで離れて暮らしている夫婦がお互いのアンドロイドを作って交流したら寂しさは軽減しますか。

石黒浩(以下、石黒):はい、寂しくないと思いますよ。

渡辺:それは会っていなくても寂しくないということですよね。

石黒:いや、会っているから寂しくないということです。アンドロイドって脳ミソは確かに入ってないですよね。
でも、いまこうやって僕と話していても中身が入っているかなんて気にしないでしょう。

それは見かけの100%がその「人」だからです。つまり、良いとか悪いではなく、人間の存在感ってそんな程度のものなんです。

渡辺:ということは、アンドロイドを人間に寄せていく必要があるので、多少の人工知能が必要だということですよね。

石黒:いや、本人っぽく喋れれば十分です。

渡辺:しかし、それでは「経験」が共有されていないと思うのですが。

石黒:経験っていうのはどこで共有されると思いますか。自分の脳ミソですか。違いますよ。

経験とは、社会的な目によって共有されるものなんです。例えば、誰かに「石黒さんのアンドロイドと話した」と言われることがありますけど、そういうときって何となく自分がそれを経験したように感じるんですよね。

マツコ・デラックスも自分のジェミノイド「マツコロイド」に対してそう感じたそうですよ。
マツコロイドがカンヌに行ったときに「自分もカンヌに行った気になった」と言っていました。

つまり、経験というものは社会的に共有するものなんです。自分の脳が覚えている経験って自分にとって都合の良いものばかりで、あまり完全なものではないんです。

渡辺:つまり、自分自身がそこにいなくてもまわりからのフィードバックがあれば、その人の記憶などは形成されてしまうということですね。

石黒:そうです。まわりが「それ」を僕自身だと思って関わっていることで、そのことは十分に自分の経験になります。

例えば、飲み過ぎてしまった次の日に「おれ昨日何したっけ」と他の人に聞くことと同じなんですよ。

記憶ってそれくらい曖昧なもので、周囲の人の助けがないと作っていけない。
記憶よりも社会的に覚えられていること、伝えていることの方がはるかに強烈です。
監視カメラの方が自分の記憶よりも正確で、自分の記憶は裁判で証拠にならないけど、監視カメラだと証拠になるでしょう。

渡辺:その場に自分がいなくてもまわりからのフィードバックがあればいい、それが経験になるとおっしゃいました。

しかし、アンドロイドがもう少し進化して自分とは別の行動をしたとすれば、やはりアンドロイドと自分のアイデンティティは離れていくのではないでしょうか。
また、自分のアンドロイドに嫉妬するということは起こりうるのでしょうか。

石黒:アンドロイドが人工知能を持ったとき、それは十分に起こりえることだと思いますよ。
双子の兄弟は意識を共有しているわけではないので、お互いに嫉妬するかと言われたらするでしょう。

渡辺:はい。例えば、夫か妻かいずれかが単身赴任の夫婦で、自分も相手についていくか、それとも人工知能を持った相手のアンドロイドと暮らすかという選択をせまられた場合はどうなりますか。

石黒:そりゃあ、いつもいない夫よりも、いつも一緒にいるアンドロイドを選ぶと思いますよ。あとはお金と保証の問題だと思いますね。

渡辺:石黒先生にこれを一番聞いてみたかったのですが、アンドロイドを作ることでパートナーがいないから「寂しい」と感じることが無くなるのではないでしょうか。

石黒:十分にお金持ちで、配偶者がいてもいなくてもどちらでも良いという人だったらそうでしょうね。

アンドロイドは悪いことはしませんし、信用もできます。
ただ、故障してしまうと修理に莫大な費用がかかるので大変だと思いますよ。
ジェミノイドと暮らすということはある意味、生活資金が保証されないということですから。法律が変わって保証されるようになれば話は別だと思いますが。

思考実験の末の仮説を実践者である石黒教授に投げかける渡辺思考実験の末の仮説を実践者である石黒教授に投げかける渡辺

渡辺:将来的には、人間はパートナーとしてジェミノイドを選ぶこともあり得るということでしょうか。

石黒:例えば、高齢者の間ではそういうことが多くなると思います。
要介護高齢者のコミュニケーション促進のために製作した遠隔操作型ミニマルアンドロイドの「テレノイド」を高齢者施設で実験しているんですが、その研究結果からもそうだということが分かっています。

認知能力が低下した人にとっては、対話よりも自分の話を聞いてもらうことの方が大切なんです。
「相手の考えていることは何か」と考えるのは認知的な負荷がとても大きい。

だから、高齢者は人と話すのが嫌になってくるんです。自分の話を聞いてくれる都合の良いロボットこそが良いパートナー。だから、テレノイドは世界中で受け入れられるんですよ。

渡辺:配偶者に先立たれた場合、亡くなった人のジェミノイドを作るという世界についてはどう考えますか。

石黒:人工知能のレベルがより進化すること、また連れ合いのひとの年齢が一定に達していれば十分にあり得ることだと思います。認知症の人と同等のレベルの知能だったらごく近い将来に実現すると思いますし。

ただし、この部分は倫理的な問題が関わってきます。倫理というのは今の人たちが新しい技術をどう受け入れるかということです。個人の想像次第で、肯定か否定かどちらにも傾くことが考えられますからね。だからこそ、新しい技術を知らない人に伝えるときは十分に注意しなければいけないんですよ。

渡辺:つまり人工知能の問題をクリアすれば、アンドロイドは人間の喪失感を補完できる存在になれるということですよね。

石黒:実際、喪失感は誰にでも補えます。人ってアクティブな状態だと喪失感は無いですよね。ただし、喪失感と安住感を繰り返した末に「この人とずっと一緒に居たい」と思う相手がいる人にとっては、アンドロイドが喪失感を補える存在になると思います。

高齢者の離婚はずっと我慢していたことが埋められないと分かったときに起こりますが、アンドロイドがパートナーならそういうことは起こりません。終止、一定の状態を保つことができますから喪失感は生まれません。

渡辺:ロボットと生活することは楽しいですか。

石黒:「楽しい」というのは相対的な感情ですから、答えるのは非常に難しい。ですが、ロボットだから楽しいということはありません。

人は不幸があるからこそ幸せを感じると僕は思います。
人間と向き合うことって、それなりに認知的なプレッシャーがかかるんですよ。

一方で、アンドロイドと向き合うのは気楽で楽しい。しかしその楽しさは、人間的な深さでいうとどうなのか。ただし、人間でも浅い人間がいますよね。そうするとロボットの方が深いということもあるでしょうね。

アンドロイドに意図と欲求を持たせることで「人間とはなにか」を見つける

渡辺:アンドロイドの研究は「人間とはなにか」というテーマに最終的には行き着くと思います。どのような技術的なブレークスルーがあれば、そのテーマの答えに近づけますか。

石黒:いま「アンドロイドに欲求と意図をもたせる」というプロジェクトを進めているんですが、この取り組みの結果は、そのテーマに対する答えに近づくかなと思います。
これまでのアンドロイドは欲求と意図を持っていなかったので、人間の欲求と意図を理解できません。なので、それらを持たせることで人間とより親密になれると考えています。

つまり、単なる一問一答のロボットではなくなるということです。

井上(ライター):アンドロイドが人間と意図を共有するというのはどういうことですか。

石黒:イメージしやすいのは男女がいて、お互いの意図を半分ずつ共有している状態です。

人を愛するということは相手の意図を推察して、相手の意図に合わせることに喜びを感じるということだと僕は思います。

ですから、アンドロイドが人間の意図を理解できるようになると、人間とアンドロイドとの間で部分的にも意図を共有できる可能性が出てくる。人間とのより深い関係につながると思うんです。

渡辺:それは、いわゆる人工知能とは異なりますか。

石黒:「人工知能」っていま世間で騒がれていますが、彼らが何を指して人工知能といっているのか僕ら研究者はさっぱり分からない。知能の定義なんてありません。「ロボットは人間に近いですか」と聞いているのと同じくらい曖昧な言葉なんです。

渡辺:まさに。しかし、意図と感情のパターンが増えていけば、ちょっとした会話程度のコミュニケーションができそうですね。

石黒:そうですね。これからは人間とアンドロイドやロボットの比較が日常的にも頻繁に行われるようになっていくと思いますよ。だって人間の定義ってすごく曖昧でしょう。だから、人間とアンドロイドやロボットを比べるようになるんですよ。

ちなみに、現在開発中のアンドロイドに「ERICA(エリカ)」という子がいます。従来は遠隔操作でアンドロイドを動かしていましたが、彼女は完全自動です。休みたい、認められたいという2つの欲求を持っています。現在のところは、それ以外の欲求はこの子には無いんですが、それでも心を鷲づかみにされますよ。

石黒教授が製作した喋るアンドロイド「エリカ」は自由奔放な性格石黒教授が製作した喋るアンドロイド「エリカ」は自由奔放な性格

渡辺:(エリカが喋る動画を見た後に)気の利かない不細工な受付と比べたら、確実にエリカを選びますね。

石黒:そうでしょう。しかも、スイッチひとつで性格が変えられますからね。
外向きの表情と内向きの表情だって変幻自在。さらに、エリカは誰がみても美人になる顔をしているんですよ。
人間は自分の想像で相手の顔の美醜を決めるんですが、雰囲気が良ければ美人だと思うんです。

つまり、相手にポジティブな印象を与えていれば美人と認定されるんです。そうすると、美人の定義は「相手に想起させやすい顔」となります。美人は認知的、技術的な観点からで創り出すことができるんです。絶対的な美人というものはいません。要は人間のポジティブな感情をいかに引き出すかがポイントというわけで。その点、エリカは今後当面、たとえば20年くらいは美人だと認定され続けると思っています.

渡辺:欲求と意図はどのように作り出すのですか。

石黒:欲求は簡単につくることができます。例えば、好きな人ができたら食事に誘ったり、手紙を送ったりしますよね。
そういった人間の行動の源になっている欲求をゴールとし、そのサブゴールとして意図を設定します。

人間の行動を解析して、それらをアンドロイドに実装可能な要素にまで落としこむんです。エリカには「休みたい」「褒められたい」という2つの単純な欲求を持たせるようにしています。イメージしているのは、典型的な女の子ですかね。

渡辺:エリカを作っていると、石黒先生の中で女性のハードルは上がりますか。

石黒:極端に上がりますよ。だって、エリカが自分好みの女性へと日々進化していく過程を見守っているんですから。
僕らにとって、研究は自分のプライベートの生活以上に大切なんです。研究室で開発に関わるメンバーにはそれくらいエリカに夢中になっている人もいます。

渡辺:アンドロイドに欲求と意図を完璧に持たせるのに、だいたいどれくらいの期間がかかると思いますか。

石黒:限られた状況と目的において、5年以内に作りたいと思っています.

渡辺:現時点でこのレベルだと、5年後の進化はとても期待できそうですね。

石黒:欲求と意図を持つ実物のアンドロイドと対面すると驚くと思いますよ。
意図が感情で表現されることで相手に強烈な印象を残すことになります。

僕にしてみれば、若い女の子を目の前にしているのと同じ感覚です。
意図と感情のバラエティーは限られていますが、すでに簡単な受け答えであれば可能になってます。

今後は研究室を飛び出してさまざまな方面で、エリカの実用性を試していきます。

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