人工知能が人間の雇用を奪い始めるまで「あと14年」#01

2017.2.10

「技術的失業」が専門の駒沢大学の井上智洋氏に聞く「人工知能が人間の雇用を崩壊するプロセス」とは

節目は汎用人工知能が登場する2030年

渡辺健太郎(以下、渡辺):井上先生の専門は、マクロ経済学ですよね。どんなきっかけで人工知能に興味をもたれたのですか?

井上智洋(以下、井上):実は学生の頃は人工知能系のゼミに入っていて、経済学をやっていたわけではありませんでした。マクロ経済学を研究し始めたのは割と最近なんです。

渡辺:そうでしたか。

井上:大学で学んだ人工知能の知識はその後、活かされることなく教養として身につけていました。
もう役に立つことはないだろうと思っていましたが、ここ最近、人工知能が急に話題になってきて僕が人工知能に再び興味を持つよりも前に、仕事が「向こうからきた」という感じなんです。

渡辺:時代が追いついてきた感じですね。それに、人工知能も経済学もわかるハイブリッドな方というのはなかなかいないでしょうから。

井上:2013年に僕の専門である「技術的失業」と人工知能とを結びつけたベストセラー『機械との競争』の日本語訳が出版されて、ある雑誌の編集者さんから「書評的な記事を書いてほしい」と依頼がありました。
それが、僕が人工知能に再び興味を持つようになったきっかけでした。

渡辺:そして今となっては、技術的失業は学問のジャンルとして確立されつつある。

井上:実は技術的失業は、古くて新しいもの。
19世紀の産業革命の頃、例えば織機の導入によって、手作業で織物を作っていた職人さんである「手織工」が失業しています。
20世紀に入ってからも、自動車の普及によって馬車を走らせて制御する「御者」という職業が失くなったり、パソコンの普及によって「タイピスト」が消滅したりしています。人工知能が普及するずっと前から、各時代に登場したさまざまな技術が失業を引き起こしています。

人工知能が人間の雇用を奪い始めるまで「あと14年」(初回)

渡辺:しかしこれまで起こってきた技術的失業と、人工知能、そしてロボットが浸透するこれからの時代の技術的失業は、次元がまったく異なるものですよね。

井上:かぎられたタスクしかこなすことのできない今の人工知能は「特化型人工知能」と言いますが「特化型人工知能」が雇用に与える影響は、これまでの織機や自動車といった技術と質的にはそれほど変わらないのかなという気がします。
量的にはケタ違いの影響があるかもしれませんが。しかし、人間と同様にさまざまな知的タスクをこなすことのできる「汎用人工知能」は、質的にも異なる影響を与えると思います。

渡辺:「汎用人工知能」が登場するであろう2030年を境に、雇用の状況はガラッと変わってしまいますからね。

井上:そうです。2030年くらいから雇用の崩壊が始まり、2045年くらいには大半の雇用が失われてしまうというシナリオも考えられる。これはかなり速く進展した場合のお話ですが、遅い場合でも2060年くらいにはもはや人間が社会ではたらいているイメージはそんなにないですね。

渡辺:しかも2030年って、もうあと14年くらいしかありませんよね。今20代の人は、その頃まだ40歳くらいで、バリバリはたらいているはずの年齢なのに。

井上:技術の進歩に社会制度が追いつかないこともあるでしょうから、大半の雇用が消滅するのが2045年なのか、もっと先なのかはわかりません。しかし、多くの仕事が技術的に代替可能になるのは、そう遠い未来の話ではないでしょう。

渡辺:ロボットを超える人間的な価値を提供でき、しかもそれを消費者が求めるならその仕事は残る。

井上:そうです。しかし、ファストフードの店員さんとかはロボットに置き換えられてしまうでしょうね。

渡辺:今だって、ロボットみたいな仕事しかしていませんからね。

外国語を話せることの価値は低くなる

井上:東京大学の松尾豊先生は、2030年よりも前「2025年」に節目が来ると言っています。人工知能が人が話すことの意味を理解し、異なる言語であってもそれを翻訳できるようになるタイミングです。「Before 自動翻訳、After 自動翻訳」で世界が変わってしまうと。

渡辺:もう子どもに英会話をやらせなくてもいいんじゃないかということになりますね。

人工知能が人間の雇用を奪い始めるまで「あと14年」(初回)

井上:人工知能がリアルな会話よりもワンテンポ遅れて自動翻訳してくれたとして、そのワンテンポの遅れを人がどう感じるか次第ですが。

渡辺:僕は海外で仕事をすることが多いのですが、正直あまり英語は得意ではなくて、それでも基本的に通訳を使わずに話すようにしているんです。初対面の挨拶とか、どうしても自分の口から伝えないといけないような大切なことを話すときとかは特に。そんなふうに自分の言葉と自動翻訳とを使い分けられるようになるといいですね。

井上:そうですね。先週、学会で韓国を訪れた際は、僕以外が全員韓国人だったので発表の冒頭で「アニョハセヨ」と言って始めました。すると、それで会場が「ワッ」と湧いたんですね。大切なのはその「ノリ」で、あとは自動翻訳でやっていいのかもしれない。

渡辺:自動翻訳は「デジタルな情報」で、自分の声で伝えるのは「ライブ」と分けてもいいでしょう。

「留学」も同じで、自動翻訳が実現すると英会話のスキルを磨くことの価値は低くなるけど、留学先での「現地でなにかを体験すること」の価値は残る。

これは、これまでの情報化社会で起こってきたことと同じで、「情報」の価値はかぎりなくタダに近づいていくけど、「体験」や「ライブであること」がますます生きてくる。

井上:まさに。そういう意味では、人工知能もこれまでの情報技術と同じ構造で語ることができますね。情報技術が進歩し、「バーチャル空間」が拡大するにつれて、相対的に「リアル空間」における体験の価値が高まってきた。「リア充」なんて言葉が意味をもつのも、情報技術が進歩したからだと思います。

人工知能は「人間味」さえも獲得する

井上:体験やライブも然りですが、機械に置き換えられるようになると「人間にしか提供できない価値って何だろう」と人びとは考え始めるでしょう。
例えば「人間味とはなにか」とか。人工知能も、ある程度「個性」を持つようになるとは思いますが「やはり人間とは違うな」という何かが残るとすれば、それは人間味と呼べるのかもしれない。

渡辺:「共感する力」とか?

井上:難しいところですね。「共感」というのは、相手が自分と似た感情を抱いていることを言葉などで表現することで「この人はわかってくれてる」と感じる気持ちなわけですが、それも人工知能=ロボットによってある程度は真似や振りができてしまう。
人工知能は、ありふれたコミュニケーションの型は一瞬で学んでしまうでしょうから。
「今のは真似や振りじゃない。その場かぎり、一回かぎりしか出てこないであろう反応だ」、そう人間が感じられるコミュニケーションを人工知能もできるようになるのかが境目でしょう。

渡辺:以前、大阪大学の石黒先生にアンドロイドの「ERIKA」を見せてもらったことがあって、そのときはふてくされた表情なんかもしていました。
その仕草は、十分「かわいい」と感じられるレベルだったので、そのとき「人間と人工知能の境目って曖昧だな」と感じました。

井上:アンドロイドなんかよりもよっぽど感情を表に出さない人もいますからね。

消費者にとっては天国、労働者にとっては地獄な日本の労働状況

井上:「ホスピタリティー」なら、人間はロボットに勝てるかもしれません。人間のなかでも「日本人」は特に優位に立てそうな気がします。

渡辺:少し話は脱線しますが、チェーン店のホスピタリティーのレベルは、世界のなかでも日本は高い。
でも、ハイクラスのサービスは海外のほうが上かもしれません。

井上:海外の店員さんたちは日本ほど一律の職業訓練を受けているわけではないので、人によってサービスの質が異なるんですよね。
逆に日本人は、性格が元来フレンドリーな人であろうと不愛想な人であろうと提供するサービスの質は常に一定。
「質が保たれている」と言えば聞こえはいいのですが、マニュアルがなくてもフレンドリーに振る舞える海外の店員さんには負けてしまうでしょう。

渡辺:そういう意味でいうと日本は、はたらく側の立場からするとすごく過酷な国だと思います。

井上:たしかに。海外だとふてくされている店員さんが普通に雇用されていますもんね。
日本は雇用されるためのハードルが高い。
日本人はそれでもその高いハードルを超えようとします。
欧米のマクドナルドの店員さんとか不愛想な人が多いですが、そういう人たちが日本に来てマクドナルドで雇用されるかというと・・・

渡辺:無理だと思いますね。「日本の接客バンザイ」というのは消費者としてはいいけど、それはブラック労働になりかねない。しかもブラックに頑張って、それで経済で他の国に勝っていればまだいいのだけど、実はスペインなんかにも一人当たりGDPでは負けている。

井上:つまりは、サービス「過剰」。過剰な分は経済的な取引の外にあって、GDPの数字には乗ってこないですからね。まさに、スマイルはゼロ円です。

渡辺:その上、日本の消費者は過剰なサービスを受けるのが当たり前だと思い込んでいる。昔はそうじゃなかったのに。

井上:この10年くらいでもだいぶ変わりましたね。

渡辺:企業がメディアから叩かれて、客に対して粗末な対応ができなくなったからかもしれません。

井上:今は日本に来る外国人が「こんなに接客やもてなしがすばらしい国はない」と言って「女性の店員がずっとニコニコしているから、もしかしておれのことが好きなんじゃないかな」と勘違いするくらい。
でも、そんな素晴らしい日本で住もう、はたらこうとなると「なんて過酷なんだ」となる。
消費者にとっては天国、労働者にとっては地獄なのが日本。もう少し、どちらにとっても天国に近づけられないのかなと。

渡辺:ロボットが浸透することで「人間らしさ」が見直され、今の状況を変えられたらいいですよね。
きっとオリンピックが終わったあたりから、こうした議論は進んでいくのだと思います。
「オリンピック」というわかりやすいものが目の前にあるからいいですが、それが終わったら抜け殻のようになって、「さあ、日本はこれからどうなってしまうんだろう」となって、ようやく真剣に未来のことを考え始めるのではないでしょうか。

第2回は、人工知能による人間の雇用崩壊後に訪れる「はたらかなくていい世界観」について語られる。

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