少子化は問題ではないーロボット革命で変わる教育#03

2017.2.10

「技術的失業」が専門の駒沢大学の井上智洋氏聞く、解決困難だった少子化・貧困など社会問題を人工知能が解決に導く道筋について。

少子化はロボットの浸透により問題でなくなる

渡辺健太郎(以下、渡辺):日本では「少子化問題」が騒がれています。
子どもを生みにくい、育てにくい社会というのはたしかに問題だと思います。
でもそれは子育て環境の問題であって、少子化が問題ではない。少子化問題とは経済問題だと思います。
そして、ロボットが普及すれば労働力の問題は解決されるのではないかと。

井上智洋(以下、井上):国の財政を支えるという意味では、何も「人間の」労働力にこだわる必要はありませんね。

渡辺:「少子化で老人が年金をもらえなくなるのは問題だ」とかいう政治家もいますけど、それはまったく違う問題を恣意的にカップリングしているだけだろうと。ロボットさえいれば、生産性は十分に上がるわけです。

井上:重要なのは、少子化と技術革新の進展スピードの比較ですよね。どちらのほうが速く進むのか。
現時点では、少子化の進行するスピードのほうが速い。
しかしいずれは、人工知能が発達する速度がそれを上回り、少子化による生産性の低下を補うようになる。人手不足よりも、むしろ「人が余ってしまう」ことのほうが問題になるはずです。

渡辺:汎用人工知能が登場して多くの雇用が失われ始めるのが2030年頃だとしたら、14〜5年後ですから、もうそんなに先の話じゃない。
たとえ今から急いで子どもをたくさん作ったとしても、まだその頃には14〜5歳で生産人口ではないわけですから、ロボットの浸透を急いだほうがいいですよね。

次世代の子どもには「文化資本」を与えよ

渡辺:これだけ社会や雇用がガラリと変わっていくわけですから、「これから子どもをどうやって育てていこうか」と考える親も増えそうです。

少子化は問題ではないーロボット革命で教育も変わる

井上:前に明治大学の飯田泰之先生と対談したときに、機械に置き換えられないクリエイティビティーに関わる仕事に将来就けるように子どもを育てられるかどうかは、「文化資本」を供給する力にかかってくるのではないかという話になりました。

渡辺:文化資本と言いますと。

井上:例えば、家に文学全集が置いてある家庭が優位になるのではないかと。他にも、ある保育園には東大や京大を卒業した先生しかいないのですが、彼らが子どもたちに鑑賞させるDVDのチョイスのレベルが高い。
そうなると、高い保育園料を支払えるお金持ちの子どもたちだけが、質の高い文化資本を手に入れられるようになってしまう。

渡辺:なるほど。

井上:理想はフィンランドのように、大学院を出た人とか知的レベルの高い人しか学校の先生になれないようにして、あまり裕福でない家庭の子どもでも教養の高い先生による教育サービスを受けられるようにすること。
そうしないと、どんどん差が開いていってしまう。「文化資本の再分配」が、これから必要になるのではないかなと。

渡辺:文化資本というコンセプトは、日本ではなかなか理解されないでしょうね。

井上:子どもの勉強=試験勉強、というイメージがありますからね。

渡辺:嫌なことでもがまんしてやるのが勉強だ、のような。

井上:実は日本って、大人の数学力とか読解力とかでは世界トップレベルなんです。ある調査では、主要国24カ国の中で一位でした。
しかし、ITスキルはその中で10位。別の調査では、日本人の大人の科学に対する関心の強さは、14カ国中最低。
つまり、「頭はいいのに、知的好奇心が低いのが日本人」。詰め込み教育の弊害だと思いますね。
もっと知的好奇心を育むことに重点をおかないと、大人になると誰も勉強しなくなります。科学雑誌を読む大人も、アメリカに比べて格段に少ない。

渡辺:ロボットのように、勉強を「やらされて」いるからでしょうね。テストの点数は高いんだけど、応用できないみたいな。僕は知的好奇心そのものが能力だと思っています。

井上:日本人はいろんなところで「がまん大会」ばっかりやらされている。

渡辺:ロボットっぽいですね。これではすぐに置き換えられても仕方がありません。

「わかっていない人たち」によるアカデミズムは危険

渡辺:しかしこういう話をしても、技術をわからない、特に上の世代の政治家や学者だと理解できないのでは。いつの時代もそうですが、世代によって分断って起きますよね。

井上:ご年配の経済学者の方々は、きっと人工知能が大きな問題だとわかっていないでしょうね。半分くらいの人たちは、「なんで井上はこんなことやっているのか。アカデミズムの世界を捨てたのか」と思っているでしょう。

渡辺:そのアカデミズムの世界自体、もう終わってますよね。

井上:学問の分野は「学会が作られたら終わり」と言われていて、経済学にもある程度それがあてはまります。学会ができて制度化されると、決められた枠のなかでちょっとした発見を付け加える程度の論文しか出てこないことがほとんど。なかには画期的な論文もありますが。

渡辺:本当は出来上がった枠自体を疑わないといけないはずなのに。

井上:そうしないほうがアカデミズムでは評価されてしまうんですね。僕自身はその枠にはあまり興味がなくて、それよりもこれから起こるであろう、経済的にもっとインパクトが大きい現象を追求していきたい。
半分は遊び感覚で楽しんでやっていますが、半分はしないといけないという使命感で研究しています。

渡辺:そんな状況のアカデミズムじゃ、子どもの教育をミスリードしてしまって当たり前ですね。

井上:僕が教員を務めている駒沢大学の経済学部でも、「会計士」を育てることに力を入れているんです。
でも、それがはたして正しいことなのか。もちろん選択の自由は学生にあるのだけど、会計士って長期的に見たときに技術的失業する可能性が高いと言われています。
日本ではリーマンショックの頃と比べると会計士に対する需要はもち直してきていますが、それは景気が上向いているからであって。将来、技術的失業をするリスクが高いなら、それを伝えた上で「それでも目指したい」と学生が言うならやらせたらいい。

渡辺:小学校の授業とかでも、本当のことを言ったほうがいいと思うんですよね。今の時代に子どもに会計士を目指させるのもどうかと思いますし、あとは小さい時から過酷な学習塾に入れている親とかどうかと思います。
これからは「体験の価値」が高まるんだから、もっと人とは違ういろんな体験をさせたほうがいい。

ロボット革命とグローバルベーシックインカムで貧困解消

渡辺:少子化ともう一つ、人工知能と関連させて考えたいのが「貧困問題」です。
人工知能、ロボットが浸透すると、貧困問題は解消されるのでしょうか。

井上:はい、より簡単に解消できるようになると思います。といっても、そのための制度を整える必要がありますけど。
例えば、ロボット革命によって爆発的な経済成長が起こるとして、所得の25%をベーシックインカムの財源にまわしたとします。
すると時代が進めば進むほど、ベーシックインカムで給付されるお金は増えます。これがもし「%」ではなく、月7万円のように「額」で一定にしていたら、当然給付額は増えません。

渡辺:アジア、アフリカの一部の国など、発展途上国の貧困問題はいかがでしょうか。

 poverty

井上:貧しい国で暮らす人びとの最低限の所得を、どうやって保障するかですよね。これは「国」を超えないと解消できない問題です。
先ほどは日本という「国単位」でのベーシックインカムについてお話しましたが、なかには「グローバルベーシックインカム」の必要を唱えている人もいます。ピケティーは「グローバルな資産税が必要」だと言っていますが、これは一国だけ資産税を強化しても、タックスヘイブンなどに資産がフライトしてしまうからです。
最近ちょうど、金持ちの資産隠しや課税回避が「パナマ文書」によって白日の下にさらされましたが。しかし、グローバルな資産税は無理なんじゃないかとピケティも批判されています。
同様にグローバルベーシックインカムもなかなか難しいとは思いますが、主要国が協力すれば不可能ではありません。グローバル規模で大胆な政策を実行できれば世界中から貧困が失くなるかもしれません。

渡辺:ロボット革命による爆発的な経済成長によって貧困問題が解決されると。

井上:今でも可能かもしれませんが、地球規模の上手い分配の仕方がないんですよね。

渡辺:ベーシックインカムのような、シンプルな分配の仕方を作ればいい。

井上:もしベーシックインカムが導入されたとしたら、公務員などの公的機関ではたらく人の数はかなり減るでしょうね。
今でも、日本年金機構(旧社会保険庁)とかは「お金をこっちからあっちに移動させているだけの組織なのに、なんであんなに人が要るんだ」と言われてしまっています。
年金制度をシンプルにすれば、そんなに人は要らなくなる。
ベーシックインカムを導入すればなおのこと。
そういうわけで、お金をどう配分するかを決める立場にあることで権力を得ている政治家や官僚の方々が、「BI(ベーシックインカム)革命」の最大の抵抗勢力になるかもしれません。

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