旅するように暮らすー佐々木俊尚が実践する多拠点居住ライフ#01

2017.4.6

未来のライフスタイル「多拠点居住」を実践する作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏。実践を通して出会うひとびとから見えてくる時代の大きな変化とは。

「週末移住」や「デュアルライフ」が示唆する未来のライフスタイル

最近書店で目にすることの多くなった「週末移住」や「デュアルライフ」という言葉。都会で働きながらも、田舎に拠点を構え、週末や時間のある日にそこで過ごすというライフスタイルだ。

都会の忙しい生活から離れ、ゆっくり自分の時間を過ごし心身ともリフレッシュできると人気が高まっており、少しずつだが確実に実践者は増えてきている。

作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏はいち早く2拠点居住を始めたパイオニアだ。いまでは2拠点から3拠点へ「多拠点居住」へと発展した。

進化するテクノロジーにより変容する社会のリアル、そしてそこから導き出される未来像を描くことを自らのミッションとする佐々木氏にとって多拠点居住はどのような意味を持つのだろうか。

『CATALYST』監修役の渡辺健太郎が佐々木氏への取材を通じて、水面下で起こっている大きな変化の兆しを探ってみる。

前編となる今回は、佐々木氏が多拠点居住を始めるきっかけ、そして実践して見えてきた課題やおもしろさをお伝えする。

佐々木俊尚
プロフィール 佐々木俊尚
作家・ジャーナリスト。毎日新聞社の事件記者を経て、アスキーに移籍。その後独立しフリージャーナリストに。現在ウェブメディア『TABI LABO』編集長を務める一方、テクノロジーと社会変容をテーマとした執筆活動にまい進している。著書に『レイヤー化する時代』『そして、暮らしは共同体になる』などがある。

「地元に暮らすように旅をする」新しいライフスタイル

渡辺健太郎(以下、渡辺):佐々木さんの著書『そして、暮らしは共同体になる。』を拝読させていただきまして、現在多拠点居住をされていることが書かれていました。いまはどちらに拠点を構えられているのでしょうか。

佐々木俊尚(以下、佐々木):東京のほかに軽井沢と福井県にそれぞれ家があります。

福井県の方はもしかすると引っ越しするかもしれません。同じ福井県内ですが。

いまの家が築40年の古家で、かつ豪雪地帯なので、冬に行くのは難しいんです。

ただ、近くに草月流の陶房があったり、岡本太郎が創作活動をしていた場所もあったりして、環境はすばらしいですね。

基本は夏に行きます。向こうでは、漁師さんや農業をやっている知り合いや空き家対策のNPOをやっている友人にあったりと、知人・友人がいるので会いにいく感じです。

渡辺:福井県に拠点を構えたのは何年前くらいですか。

佐々木:2015年でまる2年になりますね。

渡辺:どのようなきっかけだったのでしょうか。

佐々木:もともとは2006〜07年にかけて福井県の方に頻繁に取材に行っていたのとその流れで妻も向こうで仕事をするようになったこともあって、毎回ホテルに宿泊するのも高いし、家を借りようとなったわけです。

家賃は月に1万8000円なんですよ。しかも、現地の会社と費用を折半しているので、毎月9000円しか払ってません。

渡辺:それだと暖房代の方が高いですよね。

佐々木:そうです、暖房代の方が高いです(笑)

だから冬は行かないんです。

渡辺:東京から福井に行くときは車で移動されているのですか。

佐々木:車で移動しています。車がないと生活できないところなので。

バス停はあるんですけど、そこに行くまで徒歩20分かかってしまいます。

車だと東京から6時間くらいしかかかりませんし、慣れるとまったく問題ないですね。

渡辺:意外と時間がかからないんですね。

佐々木:ただ、新幹線が通ってないですし、空港もないので、かなりへんぴな場所です。

福井はもともと夏の海水浴シーズンに京都とか大阪から多くのひとが訪れていたんですが、鳴門大橋ができて淡路とか徳島に行くひとが多くなって、いまでは観光地としてはさびれてしまっています。

でも最近思うのは、福井だけなく日本全国どこに行っても何もないのは同じだなと。

福井県って永平寺とか東尋坊とか観光名所はありますが、1回行けばもういいかなと。でも

これってどこにいってもそうですよね。

例えば金沢の兼六園も有名ですけど、1回行けば良いじゃないですか。大切なのは、このまちいいよね、このまちに住んでみたいよね、とか長期滞在を促すことだと思うんです。

従来の観光だけでひとを呼ぶのは間違っているんじゃないかなと。

渡辺:それだけへんぴな場所だと、東京とは異なった文化とかライフスタイルがありそうですね。

佐々木:北陸は外国人観光客が増えているんですけど、みんな金沢で止まっています。福井までは来ないんです。

そういう場所なので、地元のひとも外に出ていかない。

交通の便が悪いので、大手企業の工場もないし、企業城下町みたいなのもない。だから、そこに住んでいるひとたちは地元でなんとかやるしかないとなって、起業率が非常に高くなっているんですよ。

有名な話ですが、福井県は日本で一番社長さんが多い県です。女性も働く必要があるので、概ね共働き世帯が多いです。

かつ、実家の近隣に住むので、子供の世話を両親に任せるなどもできて、幸福度が高いともいわれています。

きちんとみんなで働いて家族を維持していくという関係性が、幸福度の高さにつながっているのではないかと考えられています。

渡辺:交通の便が悪いことが地方にとって必ずしも悪いことではないと。

佐々木:そうですね。ストロー効果というのがあって、長野県は新幹線ができて交通の便が良くなったのですが、多くのひとたちが東京に出て行ってしまった。そのせいで寂れていったまちは少なくないです。

だから、福井ではそういう問題への取り組みのおもしろさとか、そのまちに住むひとたちやコミュニティに魅力があって拠点を構えたということになります。

基本的には、その土地で暮らすように旅をするとか、そこで暮らしてみることがすごく大事だと思っています。

だから観光名所には行かないし、ホテルに泊まることもない。ここ数年はAirbnbで民泊物件に泊まることがほとんどです。

地元で買い物して、地元の食材で料理して、その土地のひとになりきった感じで、その雰囲気を楽しむ。

多拠点居住というのは、その延長線上にあるといってもいいかもしれないです。

渡辺:Airbnbだとキッチンがあるから料理できるのがうれしいですよね。

佐々木:最近、道の駅とかで農協を通さない野菜を売っているのをよく見ます。規格外で地元でしか消費されない野菜がけっこうあるんですよ。

軽井沢では軽井沢菜とか、大きなスーパーではなかなか売っていないような食材を買って、料理して、食べて、楽しむんです。

佐々木俊尚

多拠点居住の魅力は多様な人間関係

渡辺:軽井沢にはいつごろ拠点を持たれたのですか。

佐々木:2011年夏からです。当時はまだ東京にしか拠点がなく、震災もあって、もう1つくらい拠点があってもいいよねという話になったんです。ただ、ぼくの実家は兵庫で、妻の実家は広島でなので北は北海道から南は中部地方まで実家に帰れる距離であちこち探しました。

大型犬を飼っていて、体重20キロくらいのスタンダードプードルなんですけど。大型犬だと飛行機移動が難しいし、電車も乗れないんですね。

そこで車で移動できる範囲で探したら、その結果、軽井沢になったんですよ。

渡辺:軽井沢の拠点でも仕事をされている。

佐々木:軽井沢ってあまりひとがいないんですよ。東京のように若いひとたちと交流する感じではないので、軽井沢では原稿書いたり、本を読んだり、集中力が求められる仕事をしています。

車で2時間、電車で1時間10分と東京から近くて、買い物も便利だし、東京と同じレベルのレストランやお店があって不自由はしませんね。

短いときで3〜4日、長いときで10日くらい。月に1〜2回は軽井沢に行きます。

渡辺:かなり手軽に行くことができるんですね。東京に住みながら、軽井沢にも家があるというのはどのような感覚なのでしょうか。

佐々木:安心感がありますね。何かあったらそこに帰る。

渡辺:多拠点居住はリスクヘッジ的な意味を持っていると。

佐々木:多拠点居住の最初の目的はそうですね。

ただ、それぞれの拠点で人間関係ができてくると、それがおもしろくなってきます。あと、移動をしていると、移動することへの抵抗感がどんどん下がってくる。

たとえば、明日軽井沢に行こうと思っても、準備にそれほど時間はかからない。着替えなど一通りは向こうにあるので、持っていくものはパソコンくらい。

いまはクラウドサービスも普及しているし、ネットにさえつながればどこに行っても仕事環境は変わらないじゃないですか。そういう意味では、仕事が非常にやりやすくなったと感じます。

後編では、多拠点居住を実践するなかで出会うひとびとから感じる「価値観シフト」について語る。特に若い世代に見られる価値観シフトは、これから社会を大きく変える原動力となる。

 

取材・執筆 :

シゲキ的?

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佐々木俊尚

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