佐々木俊尚が実践する多拠点居住ー社会は流動化「弱い関係」が重要に#02

2017.4.7

多拠点に住み、複数の仕事を持つことが普通になる。多拠点居住実践者の佐々木俊尚氏が感じる時代の大きな変化と未来像に迫る。

時代の価値観シフト エッジの効いた若い世代が目指す未来

渡辺健太郎(以下、渡辺):先ほど(前編)佐々木さんが多拠点居住を始められるきっかけを伺いました。この数年で実践者がかなり増えていて、ライフスタイルを変えようとする動きが強くなっているような感じがします。多拠点居住を早くから実践されている佐々木さんはこの現状をどのように捉えているのでしょうか。

佐々木俊尚(以下、佐々木):多拠点居住もそうですが、ゲストハウスやIターンのコミュニティが増えていて、多くのひとたちが多様なライフスタイルが可能だと気づき始めているような気がします。

Iターンだと特に九州で増えている印象があります。温かいから人気があるんですね。

最初に先駆者がその土地開拓して、その後同じ思いを持った5〜10人くらいが引き寄せられてコミュニティを形成する。

そういうコミュニティでは最初にカフェやゲストハウスができて、その後ビールのブリュワリー、パン工房ができて、だんだん村みたいになっていく。

佐々木俊尚
プロフィール 佐々木俊尚
作家・ジャーナリスト。毎日新聞社の事件記者を経て、アスキーに移籍。その後独立しフリージャーナリストに。現在ウェブメディア『TABI LABO』編集長を務める一方、テクノロジーと社会変容をテーマとした執筆活動にまい進している。著書に『レイヤー化する世界』『そして、暮らしは共同体になる。』などがある。

渡辺:そういうコミュニティの開拓者は変わったひとが多いですよね。

佐々木:そうですね。変わっているひと、勇気のあるひとが1番最初に行く。

東日本大震災のあと、良くも悪くも放射線忌避で西の方に行くひとが増えたんですけど、それがIターンのベースになっているところはけっこうあります。

お子さんがいる家庭とかそうです。だいたい九州や四国が多いですね。

渡辺:海外だとヒッピーが開拓者になりそういうコミュニティを作っていた時もありましたが。

佐々木:日本でも70年代にヒッピーコミューンはあったんですけど、いま消滅してなくなってしまいました。

いまのコミュニティは、インターネットがあるので外部とつながって、移動コストも下がっているので昔とは様相が違います。

渡辺:いまの若いひとたちはコミュニティ形成のときにSNSなどインターネットテクノロジーを使っているので、昔のように閉ざされた空間になることはないということですね。

佐々木:そうですね。

そういうテクノロジーを活用できる若い世代の地方移住需要も高まっています。

1年前くらいに見たアンケートでは、東京に住む20代の若者の40%が地方に住んでみたいと答えていました。

渡辺:需要はかなりあるんですね。

佐々木:需要は高いんですけど、みんな入り口が分からない。

なので、入り口の支援が増えると、実践するひとはもっと増えていくと思います。

本来、役場がサポート窓口になるはずなんですけど、住まいと仕事が別の窓口になっていて、サポート窓口として機能していません。

就労支援と空き家対策がぜんぜん関係ない部署なので、空き家対策で家を紹介してくれるけど、仕事がないとか。

そこをワンストップで支援できる体制が必要なんです。

一方で、NPOなどが支援してくれたり、最初に移住していったひとたちが支援グループをつくったり、全国に少しずつワンストップ支援が増えています。

主に西日本で活発になっていて東北がまだぜんぜんない状況ですが、最近岩手県遠野でそういう動きが出てきています。

去年11月の終わりくらいに遠野でイベントがあって、そこに呼ばれたんです。ネクストコモンズラボ(一般社団法人)という、東京から遠野に移住したひとたちのグループがあって、彼らが活発的に地方創生に取り組んでいます。

渡辺:ネクストコモンズラボの方たちは完全移住されたのですか。

そうですね。総務省がやっている「地域おこし協力隊」という年間で1人あたり400万円くらい支給される制度があります。彼らはこの制度を使って起業支援やベーシック・インカムの仕組みを作って、遠野に若い人たちを誘致しています。

デザイン会社をやりたいひと、ビールをつくりたいひと、など10人くらい集まったと聞いています。

この取り組みをきっかけに遠野をモデルケースとして、同じような仕組みを全国展開しようとしているようです。

ネクストコモンズラボの代表が林くんといって、もともと東京に住んでいたんだけど、高知に移住して5年くらい住んで、そして遠野に移住した30代の若い世代です。

そういうやる気があって若く優秀なひとたちがどんどん増えてきている。

渡辺:若い世代の感覚というか、求めるものが変わってきたということですか。

佐々木:いまのエッジの効いた20代の価値観は、エッジの効いた40代のひとたちのものとは違ってきています。

たとえばエッジの効いた40代だと、ホリエモンや藤田晋さんなどがいます。彼らの場合企業を大きくしたり、お金を稼いだりといった価値観なのだと思いますが、いまのエッジの効いた20代は地方でまちおこしをやりたいとか、移住して1次産業に従事したいといったひとたちが多い。

渡辺:昔流行ったヒルズ族など、そういう価値観へのカウンターなんでしょうか。

佐々木:カウンターという発想自体がないと思います。お金儲けに興味がないじゃないですかね。

渡辺:カウンターでないとすると、なぜいまこの価値観シフトが起こっているのでしょうか。不況とか震災が影響したのでしょうか。

佐々木:リーマンショックと震災を期に時代のマインドががらっと変わったんですよ。これは日本だけじゃなくて欧州もアメリカも同じです。

だから不況だけが原因ではなく、時代のマインドが変わったとしか言いようがないんですね。

「近代の終わり」とかそういうことになるのだと思います。

佐々木俊尚

流動化する社会は「弱い人間関係」で生き抜く

渡辺:するとこの先、社会はどのように変化していくのでしょうか。

佐々木:生き残るまちとそうでないまちの2極化になると思います。

生き残るのは、地元のひとたちだけでなく、都市から若者が流れ込んで、そこで新しい枠組みとか新しいビジネスモデルをつくって、どんどん相互作用で新しいものができて生き残っていくまちだと思います。

社会が流動化するので、地縁血縁関係や同じ会社の同僚とか、そういう人間関係はどうでもよくなって、無縁でも偶然に出会ったひとたちと暮らしていくというのが当たり前になり、そこからコミュニティが復活してくる未来があるのではないかなと。

渡辺:なるほど。固定的な社会から流動的な社会へと変化していく。

佐々木:日本人はもともと移動しながら生活する民族だったので、そこに戻っていくともいえます。農村で一生暮らすという固定化されたライフスタイルになったのは、実は江戸時代以降なんですよ。

室町時代には、職能集団というある職業に特化した集団があって、いろんな村に出入りして全国を転々として生活していました。

江戸時代になって徳川幕府の政策で、住まいが固定化される方向になり、そこからいまの村社会ができたと歴史学的によくいわれています。

そう考えると、日本人はもともと固定化された人間関係を選んで生きてきた民族ではないといえます。

昔のように漂泊する流れるような人生もあるんじゃないかなと思います。

渡辺:流動化することに加えて、人口も減ってくる。そうなると、1カ所だけに住んだり、持ち家したりするというのがリスキーに思えてきます。

佐々木:家を持つことが意味をなさなくなりますね。

都心の1等地に家を持っているのなら売ることができると思いますが、多摩とか都心から離れた場所に家を持っていてもなんら意味がない。そういうところが空き家になり、相続する側が解体費用を払えず、固定資産税を払うのもめんどくさいとなってみんな困っているわけです。

2020年のオリンピックのあとには、下手すると湾岸地域の高層マンションも値崩れする可能性があるともいわれている。もうその兆候は出てきていますけどね。

だから、最終的に何に価値を見出すべきなのか、考えなおす必要がある。

渡辺:そうなったとき、多拠点居住をしていろんなコミュニティを持っていると古い価値観の外側に行けたり、視点が広がったりするのかなと思います。

佐々木:ぼくは最終的に重要なのは「弱い人間関係」だと思っています。

これは社会学の理論(弱い人間関係理論=Weak Ties Theory)で、「強い人間関係」とは同じ会社とか家族とかそういうつながりのこと、一方で「弱い人間関係」とは仕事とかで年に1回くらいしか会わないような人間関係のことです。

たとえば転職とか起業するとき「強い人間関係」よりも自分が知らない情報をたくさん持っている「弱い人間関係」の方が価値があると考えられているのです。

毎日同じ会社で顔を合わせているひとだと新鮮な情報がないじゃないですか。

人間関係が弱いからといって、親切さが薄れるかというとそうでもない。

人間は意外と親切な生き物で、困っているひとがいれば助けようとする。それは弱い関係だろうが、強い関係だろうが、あまり関係ない。

ということを考えると固定化された人間関係のなかで生きるより、弱い人間関係をたくさん持っている方がリスクヘッジになる。

するとそこに多拠点居住の意味が出てくる。いろんな場所にいろんな関係があると、ここでうまくいかなかったら、あっちに行けばいいとか。

必ずしも東京にしがみつく必要はないということです。

渡辺:一番ネックになるのは、仕事を多拠点居住に合わせるということになりますか。

佐々木:正業の観念をやめればいいと思いますよ。副業を許容するということ。

安倍政権も副業を許可せよと企業に求めるようになり、神戸市でもそういう取り組みがある。サイボウズが副業のひとを募集していましたし、そういう流れになっているのは間違いないと思います。

だんだんみんな「百姓化」していくんだと思いますよ。

百姓というのは100の仕事という意味なんですよ。1人で100くらいの仕事をこなしていたので百姓と呼ばれている。

100まではいかなくても1人で3つ4つの仕事をこなしているひとは少なくないですし、そういうひとが増えていくんだと思います。

渡辺:多拠点居住になって、さまざまなコミュニティに属して、仕事も複数やっていくことが普通になる。楽しそうな未来になりそうですね。

取材・執筆 :

シゲキ的?

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佐々木俊尚さん対談

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