人間のみができる仕事 キーワードは『C・M・H』#02

2017.2.6

「人工知能と仕事」をテーマに、技術的失業を専門とする駒沢大学経済学部の井上智洋氏が3回連続で語る。第2回は「人間の抵抗とその先に待つ新しい社会のあり方」について。

「人工知能と仕事」をテーマに、技術革新が引き起こす失業=「技術的失業」を専門とする駒沢大学経済学部の井上智洋氏に今後のわれわれの働き方について聞いた。

前回では、2030年頃と予測される汎用人工知能、それを搭載した汎用ロボットの出現が、ある特定の職種の人たちではなく、”普通の人” たちの技術的失業を引き起こすプロセスが明らかに。

今回は、その技術的失業が起こるプロセスにおいて、人間はどのように抵抗し、新しい仕事を見つけていくべきか。
さらにその過渡期を経て、人工知能と共存する社会はどのようなかたちに落ち着いていくのか、探っていく。

人間でないと果たせない仕事「C・M・H」

前回、2030年を節目として「汎用人工知能」が登場すると、人間の労働力が大幅に要らなくなると言いました。

それでも残る雇用というのは、どのようなものか。

それを考えるためには、人間の人工知能に対する優位性について考える。

たとえば、人間の潜在的な身体感覚を知ること。
人間の頭脳を人為的に真似て作ったところで、人工知能が「強風に吹きつけたらいやだけど、そよ風なら気持ちいい」という人間の微細な感覚を、人間に教えられずに知ることは難しいでしょう。
また、たとえそのような感覚の一つを人工知能に理解させることに成功したとしても、人間はそのような微細な感覚を無数にもっており、そのすべてをプログラム化することはかぎりなく不可能に近いです。

それに、人間は自身がまだ気づいていないような感覚をも有しています。
人間の知らないことを人工知能に教えたり、プログラム化したりすることは原理上できないでしょう。
できるとしたらそれは、人間の脳や体を丸ごとコピーするような技術です。

しかし、もはやそれを人工知能やロボットと呼ぶべきではないかもしれません。

つまり、人間同士では同じような感覚が備わっているので「感覚の通有性」が存在しますが、人工知能には人間との間にこの通有性があらかじめ備わっているわけではありません。逆に言えば、通用性は人間の人工知能に対する優位性であり、それは次に述べる「C・M・H」の分野において発揮されると言えます。

「C」は、芸術のような「クリエイティビティー」の分野のこと。人工知能は「過去に存在していた古いパターンで人を感動させられるもの」は作れるかもしれませんが、「まったく新しいパターンで人を感動させられるもの」を作るのは難しいでしょう。通用性が備わっていないため、自分が作った新しいものに対して他人から共感を得られるか自分では評価できないからです。

「M」は、人工知能を「マネジメント」する仕事のこと。たとえば、「店でゴキブリが出たら何かで叩いて捨てる」よう、人工知能に教えたとします。しかし、もしもネズミが出てきたらどう対処するべきか。叩くのではなく、捕獲するか、追い出したほうがいいでしょう。「ゴキブリは叩き潰してもいいけど、ネズミは嫌だ」ということは、人工知能は自分では評価できません。いわば「不快の通有性」が人間との間にあらかじめ存在していないので、人間に教えられなければ判断できないのです。ですから、人工知能をマネジメントする立場の人は残るでしょう。

「H」は、「ホスピタリティー」。「相手が何をすれば喜ぶか」を想像するためには、自分と他人の感覚と照らし合わせる必要があるからです。玉川大学の大森隆司先生が「子どもを喜ばせるロボット」について研究されていますが、なかなか難しいそうです。

クリエイティビティー、マネジメント、ホスピタリティー。それぞれの頭文字をとって「C・M・H」の仕事においては、たとえ汎用人工知能が登場したとしても、人間が優位に立てる余地は残ります。

しかし、C・M・Hの仕事に就いているからといって安泰ではありません。カリフォルニア大学音楽学部教授のデヴィット・コープが開発した作曲プログラムの「エミー」は、バッハに似たような曲を生み出すことができます。しかし、普通の人はバッハの真似ごとすらできず、作曲能力では「エミー」をはるかに下回ります。

つまり、クリエイティビティーにおいて、平均的な人はすでに機械に負け始めているのです。さらには、プロの作曲家が負ける日が来ないともかぎりません。あるいは、初音ミクのコンサートでの集客力を見てください。並みのプロは太刀打ちできないでしょう。

これと同じことが、マネジメント、ホスピタリティーでも起きてしまうかもしれない。汎用人工知能はどんどんと発達していき、普通の人はこの3つの分野においてもすぐに追いつかれてしまう。また、レストランの予約やカラオケボックスでの注文など、むしろ生身の人間が応対しないことのほうが望まれる場合はいくらでもあります。

ベーシックインカムは必須

2030年頃に汎用人工知能が登場し、「C・M・H」の分野においても人間が人工知能に追いつかれてしまうとすると、就職や転職など労働移動する先がない世界が訪れます。有効なマクロ経済政策を実施しても、平均的な人は雇用されなくなるのです。

まず起こるのは、人間と機械による価格競争でしょう。
「Pepper」のレンタル料は一時間あたり1500円だそうです。
企業の最低賃金は、東京の場合約900円。
もしもPepperのレンタル料が下がったらと想像してしまいます。
少なくとも、人間と機械を同じ土俵で比べる段階には来ているのだと思います。

これは極論ですが、もしも人間よりもPepperが選ばれるようになると、人間はボランティアをやるしかない。
タダだったら、雇ってもらえるかもしれません。
それでもはたらこうと思うか。私はもし生活さえ保障されているのであれば、人間は好きなことをやればいいと思うんです。たとえ、稼げなかったとしても。

そのためには、「ベーシックインカム」は必須でしょう。
ベーシックインカムは、今でさえあったほうがいいと思います。なぜなら、今でも生活保護が適用されずに飢え死にする人はいるし、不正受給の問題だってある。つまり、セーフティーネットとして機能しきれていないのです。
だったら、今からでもベーシックインカムでトータルに国民を支えたほうがいい。
財源的にも可能だと思います。

残された希望として、新たに生まれたり、増えたりする雇用もあるでしょう。

たとえば、身体感覚のない人工知能には難しいヨガやストレッチのインストラクターなど、みなさんがそれぞれの得意分野で誰かの先生になればいいと思います。

大学の先生は、これからはダメでしょうね。
AI教授に高価なロボット式のからだは必ずしも必要ありません。
汎用人工知能を搭載した初音ミクのような3Dホログラムのキャラクターが、学生のどんな質問にも百科事典の知性で答えてくれて、授業の最初と最後に一曲ずつ歌ってくれる・・・ そしたら生身のオッサン教授よりも人気が出るでしょうから。

次回はこちら

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