人工知能に代替されない仕事の質、それを担うために人間がすべきことについて、人工知能分野の第一人者である東京大学の松尾豊特任准教授を取材した。

人工知能の進化で消える大企業ーー松尾豊氏が語る仕事の行方#01

2017.1.19

人工知能やロボットが仕事を代替する時代

日本の労働人口の49%が人工知能やロボットで代替可能。そんな衝撃的な試算結果が発表された。

野村総合研究所(NRI)が、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フレイ博士と共同研究し、昨年12月に明らかにしたもの。

601種類の職業が対象で、必ずしも特別な知識やスキルが求められないもの、データ分析や秩序的・体系的操作が求められるものは、人工知能やロボットで代替できる可能性が高いという。

49%ーー。
予想以上に「高い」と危機感を募らせた読者も多いのではないだろうか。
それでは、人工知能に「代替」されない仕事とはどのようなものなのか。

そして、それを担うためには、人間はこれからなにをすればよいのだろうか。

ロボットを従えるソロアントレプレナーが増加する

渡辺健太郎(以下、渡辺):著書『人工知能は人間を超えるか』で、松尾先生は「人間の知能はプログラムで実現できる」というテーゼのもと研究しているとありました。

松尾豊(以下、松尾):はい。人間の脳は情報処理をするために働いています。ですから、技術的な難しさはあるけれども、原理的にはコンピュータで実現できるはずです。

渡辺:また著書のなかで、人工知能の発展段階を人間の仕事に当てはめて4つのレベルに分類しています。もっとも低い「レベル1」がアルバイト、最高の「レベル4」がマネジメント層の仕事。

松尾:そうですね。

渡辺:この人工知能のレベルって、人間社会の構造とまったく同じですよね。
アルバイトのレベルは、マニュアルが渡されて、それをルーティンとしてこなせばいい。
人工知能の進化によってレベル1、2と仕事が徐々に置き換えられていくと、人間はより高度な仕事をしなければならない。

松尾:まさに。

渡辺:これについて僕が感じたのは、「仕事の総量は変わらないけれども、より高度な能力を求められる仕事が増えていくので、レベル1の仕事しかできない労働者は路頭に迷ってしまうのではないか?」ということです。

松尾:そういった問題は生まれてくると思います。

渡辺:仮に新しい仕事が生まれたとしても、それでも雇用のミスマッチは生まれるのではないかと思います。

松尾:自動運転車の話がまさにそうですよね。運転が上手いひとが、その能力を発揮する機会が減ってくるように。

渡辺:ええ。

松尾:そのような問題に対して、私たち人工知能研究者がどのように対応するべきかという議論も進めています。そのなかで、未来を予想するかもしれないと思った話題があります。

渡辺:なんでしょう。

松尾:レベル1、2の仕事を人工知能を搭載したロボットがやるようになる。
すると、人間は3、4の仕事をするようになる。
そうしたときに、「いまとは異なる経済モデルが生まれるのではないか?」ということです。

渡辺:どのようなモデルが予測されますか?

松尾:「多くのひとが小規模な個人事業を経営するようになる」社会です。
つまり、人間が会社の経営をして、その会社の仕事をロボットがやるような世界。
すると、世の中のありとあらゆる要求に応えるニッチビジネスが次々と生まれていくのではないでしょうか。

渡辺:大企業が無くなっていくのかもしれないですね。

松尾:かならずしも大企業が解体されるわけではないと思います。
多くのひとのニーズに応える企業は必要ですので。しかし、大企業にもあまりひとが必要なくなるということです。
また、小規模の会社が数多く生まれると思います。
そして、意思決定すること、人間のニーズや価値観を見つけ出すことが、人間の仕事として重要になるでしょう。

対人間のインターフェースとしての付加価値が高まる

渡辺:しかし、そのような仕事ができない人間にとっては、やはり仕事は無くなってしまうのではないでしょうか?

松尾:「なくなると言われている仕事があること」、これは確かです。しかし私は、そのこと自体は大きな問題ではないと考えています。なぜなら、科学技術が発達する過程で、「人間の仕事」というものは常に変化してきたからです。

渡辺:たしかに。

松尾:例えば、昔は駅で駅員が手で切符を切っていました。
その後、自動改札機が登場した際には、「彼らの仕事がなくなるじゃないか」と、多くのひとが反対しました。
しかし、自動改札機を大阪万博のときに導入したらそれがとても好評で、その後どんどんと広がっていきました。

渡辺:いわずもがな、いまの駅員は暇でなにも仕事をしていないというわけではありません。
自動改札機の不具合に対応するなど、新しいたくさんの仕事をしています。

松尾:産業の構造はこれまで、一次産業から二次産業、三次産業へと、「ひとに近くなっていくかたち」で移り変わってきました。
そしてそれにともない、仕事の質も、単純作業からひととコミュニケーションするものへと変化してきました。

渡辺:なるほど。

松尾:つまり、人工知能が発達した先にも、さまざまな新しい質の仕事が生まれていくのだと思います。

渡辺:失業率が上がるなど、ネガティブな意味で仕事がなくなるわけではないと。

松尾:はい。

渡辺:どのような仕事の価値が高まっていくのでしょうか?

松尾:例えば、接客業。カフェで売られているコーヒーはだいたい300円くらいですが、その300円で店員はコーヒーを客にサーブしていたり、会計でレジ対応をしています。
つまり、客が支払う300円は、店員やカフェという場所への対価ということなのです。

渡辺:そうですね。

松尾:近い将来、ロボットが自動的にコーヒーをサーブしたり、レジ対応してくれるようになるでしょう。いや、もうそうなっているカフェもありますね。だからこそ、「人間がやってくれる」ことの付加価値は、今後ますます高くなっていくと考えています。

松尾准教授の研究室松尾特任准教授の研究室

人間の承認欲求はロボットにも満たせるか?

渡辺:数カ月前に大阪大学の石黒浩先生と対談したのですが、彼は人間が対応してくれるよりも、見た目がより美しい美男美女のロボットが対応してくれたほうが嬉しいのではないかということを言っていました。

松尾:人間の「見た目がいいものに惹かれる」という表面的な欲求を呼び起こすのは簡単だと思います。
一方で、「結局のところ、人間の承認欲求はロボット相手で満たされるのか?」という観点もあります。

渡辺:石黒先生が開発した「ERICA(エリカ)」という美人のアンドロイドを動画で見たのですが、たしかに美人ではあるものの、「ほめられて嬉しいのか?」と聞かれると、まだ分からないところがあります。

松尾:「人間にほめられるから、認められるからこそ嬉しいんだ」という考え方の持ち主なら、相手がロボットでは満たされませんよね。

渡辺:ええ。

松尾:と思いつつも、10体のロボットが自分のことを「すごい」と言ってくれたら、さすがに嬉しくなるかもしれない。
明確には予測できないところです。

10年以内に失くなる非クリエイティブな仕事

渡辺:仕事の話に戻ります。「シンギュラリティー(技術的特異点)」に到達すると、人間の仕事に起こる変化はますます大きくなるのではないでしょうか。

松尾:僕は検索エンジンが登場したことひとつをとってみても、コンピュータの知識は人間をすでに上回っていると考えています。
つまり、「道具としてのテクノロジーの発達が、人類全体の知識や知能を増幅するという現象はすでに起こっている」ということです。

渡辺:なるほど。

松尾:つまり、人工知能が人間の力を借りずに、単独で自らを作り上げていくということはあり得ないのではないかと思います。

渡辺:では、そのプロセスについて伺います。人工知能が、先述のレベル1から4までの仕事をできるようになるためには、どのようなブレークスルーが必要でしょうか?

松尾:今後、「認識」→「運動」→「言語」という順番で技術が進展していくと考えています。

渡辺:現時点ではどのレベルに到達していますか?

松尾:「ディープラーニング」をベースにして、画像「認識」の精度が人間の知能を超えるところまできています。

渡辺:そうなのですね。

松尾:そして、次にくるのが「運動」能力の習熟です。例えば、犬は投げられたフリスビーをジャンプしてキャッチするのがどんどん上手くなりますが、ロボットもそれをできるようになる。つまり、試行錯誤をして、身体の動かし方や自分の行動を自己改善できるということです。

渡辺:すごいですね。

松尾:すると、今度は「言語」の意味理解ができるようになります。これは、言葉を文字列として捉え、そのパターンを統計的に処理する既存の統計的自然言語処理とは異なります。

渡辺:どのようなものでしょうか?

松尾:言葉からイメージを生成し、そのイメージから次に起きることを予測する。つまり、言葉とイメージを相互変換することができるようになります。

渡辺:人間の日常的な行動に置き換えますと?

松尾:なにか文章を聞いたときに、文章全体の言っている意味を想像できるようになる。さらに、それを異なる言語に変換すれば「翻訳」ができるし、端的に表せば「要約」ができるようになるのです。これから10年以内に起こることです。

渡辺:そうなると、翻訳家が失業してしまうかもしれませんね。

松尾:翻訳家が行う仕事の質も、「機械的」なものの「クリエイティブ」なものに分けられます。
例えば、洋画の翻訳。
10年後には、「正確に訳す」ことは人工知能にできるようになっているでしょう。
日本語としては正しいというレベルです。

渡辺:はい。

松尾:しかし、「良い翻訳」をするためには、映画全体のストーリーを考えたり、「この役者のこの発言にはこのような気持ちが込められている」ということを読み取って訳す必要がある。
そこには、人間の感情や価値観、文化の理解というものが必要。それは人工知能には難しいと思います。

人工知能で起業家が増え、大企業にあまりひとが要らなくなるーー松尾豊氏が語る仕事の行方(初回)松尾豊氏

次世代の教育は人工知能と切っても切り離せない

渡辺:それでも、十分すごいですね。

松尾:はい。英語が苦手な日本人にとっては特に有用な技術だと思います。

渡辺:英会話がおぼつかなくても、人工知能の翻訳にまかせれば、自分の意思や意図はより相手に伝わりやすくなるということですからね。
すると、人間は単語を覚えるような必要はなくなり、むしろ外国人とのコミュニケーションの経験値を貯めていくことが重要になりますね。

松尾:そうなんです。ですから、今後の教育、人材育成で大事になってくるのは、「異なる言語圏のひとがもっている、自分とは異なる価値観を理解し、相手に合わせたコミュニケーションができるひとを育てること」なのです。

渡辺:人工知能の話は、「教育」とは切っても切り離せないのですね。

次回は、人工知能の本格に浸透する社会の到来に向けて、「教育」はいまからどのように変化すべきかを二人が語る。「未来に生きる、強力なスキルを身につけたい」読者は必読の内容。

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