松尾豊氏が語るー人工知能時代の「人間が生きる理由」とは?#03

2017.1.19

いよいよ最終回の今回は、ずばり、「人間のこれからの生き方」について二人が語る。「人間にとってなにが大事になるのでしょう?」。この渡辺からの問いかけに、日本を代表する人工知能研究者は、はたして何と答えたのか。

キリスト教の米国、ドラえもんの日本

渡辺健太郎(以下、渡辺):イーロン・マスクやスティーブン・ホーキング博士など、割と著名な人たちが人工知能の進化に対して警鐘を鳴らしていますね。彼らはなぜそうしているのでしょうか?

松尾豊(以下、松尾):イーロン・マスクはもはや地球レベルでモノを考えるひとではないので予測が難しいですね。

ただ、彼らが警鐘を鳴らしているのは、主に悪用や軍事利用に対して、だと思います。アメリカは人工知能を軍事に積極的に利用していますし、投資も非常に莫大です。彼らのように危険視するひとは一定数必要だと思います。

渡辺:軍事でいうと、いま世界中でテロが問題になっています。テロリストの手に人工知能が渡るのはリスクだと思います。

松尾:その通りです。気をつけないといけません。

なぜなら、人工知能やロボットが発展し、軍事利用が行われていくということは、軍における人間の比率を減らせるということ。

つまり、一部の人間の判断のもと、大規模な軍を動かすことができるようになるのです。
すると、独裁者のような人物が表れ、滅茶苦茶なことをする可能性が出てきます。
そのような事態が起こらないよう、国際的に早くから対応しておく必要があります。

渡辺:おそろしいですね。

松尾:ほかに考えられるのは、文化的側面ですね。アメリカ人の多くはキリスト教徒。
すごく単純化してしまいますが、「神」がいて「人間」がいて、「それ以外の動物」がいるという世界観のなかで、人間をおびやかすものとして、ロボットや人工知能があるという暗黙の仮定があるのではないでしょうか。

渡辺:ロボットがある種、異教徒的存在になっているということですね。

松尾:それに対して、日本は昔から「ドラえもん」に慣れ親しんでいるように、ロボットとこれまで共存してきました。「一緒に暮らす」という世界観があるのですね。

渡辺:なるほど。
一方で、ロボット嫌いの人間も現れるのではないかと想像しています。
ロボットが人間を殺すのではなく、人間がロボットを殺すことが起きてしまうのではないかと。

松尾:そうですね。
しかし、いつの時代においても新しい文明を嫌うひとというのは一定数いるものです。
むしろ、僕が考えるのは、「より自然な生活をしたい」と考えるひとが増えるかもしれないということですね。

渡辺:科学技術など文明が発達したことからくる反動ですね。いまもすでにありますが、都会的ではないものに価値が生まれるような現象ですね。

松尾:はい。「森に還るひとも出てくるよね」、という話になるのですよ。人間が文明がなにもない自然へ還るというのは相当不快なことですし、その不快さを少しずつ取り除いてきたのが人間の歴史ではありますが、少なくとも趣向として、そのようなモノを好むひとは現れるかもしれないですね。

松尾准教授の研究室松尾特任准教授の研究室

ビジョンをもつ個人・集団が社会の中心に

渡辺:初回で出た話のように、「言葉の壁が一気に無くなる」のは本当にすごいことです。LCCによって移動コストは限りなく安くなってきていましたが、それでも言語の違いというコミュニケーションにおける障壁が残されていましたから。

松尾:はい。

渡辺:それすらも無くなると、もはやどこにでも住めますし、どこでも仕事ができるようになっていきそうです。
そうなると、人間にとってなにが大事になるのでしょう?

松尾:人間もふくめ、動物は「欲望」と「本能」があって生きているのですが、人間は社会的な生き物なので、自分が得することだけではなく、「自分が所属する集団のために頑張る」「そのために理想を共有する」「困っているひとを助ける」、そういったものを本能として持っているんですよね。
そこは急には変わらないのだと思います。

渡辺:そうですね。

松尾:ですから、協力し合う集団がこれからよりたくさん出てくるのではないかと。
いまだと「国」「会社」単位で理想を共有していると思うのですが、理想を実現するための方法は人工知能やロボットによっていままでよりも容易になります。
すると、「どのような理想を共有しますか?」ということが、より問われるようになるのではないでしょうか。

渡辺:「ビジョン」ということですよね。

松尾:人工知能によってコミュニケーションのコストも軽減されると、「自分はこういうことをやりたいんだ」と言える集団がより力をもつようになる。最後は、「動物」として、仲間と理想や利益を共有し、敵と戦うみたいなところに向かっていくのだと思います。

渡辺:インターネットによって、情報空間における物理的な距離は縮まりましたが、人工知能の力によってその距離がゼロになり、これからさらに強烈なネットワーク社会が形成されて、本当の意味で誰とでもつながることができるようになるのですね。

松尾:そうですね。

しかし、人間は無作為に誰とでもつながることは望んでいないと思うので、自分と価値観を共有できるひととそうではないひとというコミュニティがどんどんと出来上がっていくのではないでしょうか。

本能に忠実に生きられる社会が訪れる

渡辺:つまり、本当に共感し合えるひとが世界のどこかにいて、これまでは言語という壁があったけれど、コミュニケーションコストがゼロになることで、そういうひとたちとつながれるようになる。国際結婚や国をまたいだ恋愛も増えそうですね。

松尾:一方で、人種や民族といった、人間が生まれながらにしてもつ強烈なコミュニティーを大事にしようとする動きも強まるでしょう。
ですから、「自分は誰なのか」「仲間は誰なのか」という、所属や動物的な感覚を重要視する動きは高まってくると思います。

渡辺:なるほど。ものすごい流動化とある種の社会の再編が起こる。
ただし、その反動によって、より個人のアイデンティティーが求められる世界がやってくるのですね。

松尾:そうです。

渡辺:華僑のひとたちは、すでにそのような特性が強いですよね。世界中の国々に散らばっているからこそ、華僑ネットワークと自分たちのアイデンティティーを何よりも大事にしている。これはユダヤ人にも当てはまります。

松尾:たしかに。

渡辺:これは、移動民族に共通する特性なのかもしれません。
すると今後は、全世界の人びとが移動民族になっていくということですね。なんだかまったく思いもよらなかった対談の展開になって驚いています。人工知能が社会や生活に及ぼすインパクトは、あらためて大きいですね。

松尾:そうですね。これからどんどん制約が無くなってくるので、やりたいことがよりできるようになっていく。
そのときに、「では、何をやりたいの?」と人間に問うたときには、「人を助ける」とか「共感する」といったことも含めて、きっと動物としてやりたいことがそのまま出てくると思います。人間としての本能に忠実に生きられる社会が訪れるでしょう。

ビジョンをもつ個人・集団が社会の中心にーー人工知能時代の「人間が生きる理由」とは?(最終回)渡辺健太郎氏

対談を終えて:求められる「サバイバル精神」と「デザイア」

LCCで移動コストが格段に下がり、そしてこれから人工知能によって、コミュニケーションコストがゼロになろうとしている。
このことは、「フリー革命」に続く、衝撃的な革命になると感じた。
「コミュニケーションにおけるフリー革命」と言い換えてもよいだろう。
経済のグローバル化などを背景に「モノ・ヒト・カネ」がフラット化したが、「言語の壁」というものはずっと残っていた。

もしかしたらこれが、人間にとって「最後の壁」なのかもしれない。しかし人工知能は、それを打ち崩そうとしてる。
これによって、働いたり、住む場所はさらに流動的なものとなり、より本質的な価値が残っていくのだろう。

どこでも働けるのであれば、好きなところで働きたいし、どこにでも住んでいいのなら、好きなところに住みたい。

ならば、好きな国、好きな場所、好きな組織、好きな食事、そういった「自分にとって本当に魅力的なもの」を、より大切にすることができるようになる。
そういったライフスタイルは、これまではエグゼクティブ層の特権だと考えられていた。

しかしこれからは、それが誰にでもできるようになる。
「教育」という観点では、これから学ぶべきことは大きく変わっていくだろう。

例えば、英単語を覚える必要なんてなくなるかもしれない。
教育というのは、時間軸が非常に長いもの。
10年先を見据えて、いまなにをすべきか考える必要があると思う。
それを分かっているひととそうでないひととの差は、これからますます広がっていくだろう。

僕は、「サバイバル能力」こそが社会で求められるようになると日々考えている。

ひとつの国のルールや文化にアジャストしていくということだけでサバイブしていくのは難しくなるだろうからだ。
これからは、国境を超えた人間同士の接触が増えていく。
そうしたときに、「さまざまな国の民族性が分かっていて、付き合い方を知っている」、これが新しいサバイバルルールの一つではないかと思う。

ルールが変われば、必要なスキルも変わる。それを備えることができれば、人生は楽しくなる。

新しいルールの社会においては、「デザイア」をもつことも才能であり、それがあるか否かが成功の決め手となるようだ。人間のあらゆる仕事が人工知能を搭載したロボットに置き換えられたとき、「欠如から生まれるデザイア」、つまり自分がなにを望むのかを分かっていることが、これから最も大切になってくる。スキルではなく「デザイア」そのものが少ない人間こそがロボットに置き換えられるのではないだろうか。

そうしたことが再認識できた対談だった。松尾先生、ありがとうございました。ビジョンをもつ個人・集団が社会の中心にーー人工知能時代の「人間が生きる理由」とは?(最終回)東京大学

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松尾先生

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